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Project 1 未知に挑む

荏原製作所史上最長
縦型ポンプへの飽くなき挑戦 「ラスベガス縦型カスタムポンプ」プロジェクト

米国ネバダ砂漠の盆地にあるラスベガスの生命線は、「水」。その水道システムにおいて鍵を握るのが、人造湖ミード湖から水を汲み上げる長大な縦型ポンプだ。この取水ポンプをめぐり、熾烈な国際コンペティションを勝ち抜いた荏原製作所。しかし、納入までには数々の課題が待ち受けていた。荏原を「自分を成長させる試練を与えてくれる場所」だと断言する設計担当Yの挑戦を紹介する。

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Y.T/風水力機械カンパニー
カスタムポンプ事業部/1999年入社

産業用機械エンジニアコース
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Phase1情熱と誇りを胸に、未踏の領域へ

世界を代表するエンタテインメントシティ、米国ネバダ州ラスベガス。この街を支える水源のミード湖のフーバーダムは、近年水位低下が著しく大きな社会問題になっている。この人造湖には、水道用水を取水するための米国製のポンプ設備が既に設置されており、水位低下に対応すべく全長の長いポンプに改造されていた。しかし、その長さに起因すると思われる部品の損傷が発生し、事態を重くみたネバダ州水道局は、信頼性を重視した新規設計ポンプのコンペティションを実施した。そして、この熾烈な国際コンペティションを勝ち抜いた一社が荏原製作所だった。

この長大なカスタムポンプ案件の設計を技術計画部門から命ぜられたとき、Yは確信したという。「荏原なら必ず期待に応えられる」と。この自信は、荏原の設計担当者として、ここまで経験してきた数々の経験がバックボーンにあるようだ。

「カスタムポンプの設計担当は絶えず、幾つもの海外案件を抱えています。国家プロジェクトも少なくなく、技術要件も容易なものではありません。しかし、私たちが怯むことはありません。これまでの実績によって培ってきた荏原の技術と“必ず実現できる、果敢に挑もう”という変わらぬスピリットがある。だからラスベガス案件も、特別なものではなく、一つの乗り越えるべき壁として捉えて、向き合ったのです」。

もともと荏原は、ネバダ州水道局に横型ポンプの納入実績があり、高い評価を得ていた。しかし、縦型ポンプは初めてだ。そしてその条件は、全長88mというもの。荏原の誰にとっても未知、未踏の領域だった。

「過去の実績を超える仕様の製品であっても、技術的課題を一つひとつ理論的に検討して対策していけば、必ず道は開けると思いました」。

クールな発言だが、Yの胸中は熱く燃えていた。

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Phase2設計、膨大な資料づくり、そして様々な課題

“情熱と冷静のバランス”を絶妙に保つYのキャラクターは、現地での仕様打合せ調査の場面でもいかんなく発揮される。

「プロジェクト開始の仕様打合せでは実際に渡米しました。稼働しているポンプを見て、荏原のポンプ全体像のイメージを膨らませてきました。そこからこの難しい仕様のポンプをどう料理し、設計へと落とし込んだらいいのかを考え尽くす時間を過ごしました」。

ここでYの頭の中では、改良点なども踏まえての完成イメージが固まった。帰国後、Yはさっそく詳細設計にとりかかる。デザインレビューでは、ベテランのエンジニアたちの知恵も借りて、必要に応じて設計変更をし、ブラッシュアップを繰り返す。最終的には、シャフトとコラムパイプを26本つないで、88mにする構造で図面は完成した。パイプ製造は中国で、そして組立・仕上げ・調整は日本で行うことになった。

「北米でのプロジェクトには必ず技術コンサルが入り、厳しい規格・基準のチェックが行われます。そのための承認図面などの資料も膨大で、なおかつ振動解析/耐震計算などに対するコンサルの要望コメントにも答え続けなければなりません。でも、要望が厳しい分こちらの技術レベルも上がるわけで、私はこの任務を前向きに楽しむようにしていました」。

工場での性能確認テストでは、26本のコラムパイプを接続しないで運転されるためパイプ中のロスなどを予測しながら、全体パフォーマンスを評価していった。実際に26本をつないでのサイズ実測では誤差が発生したが、それを現場のベテラン職人エンジニアが調整していく。Yも現場に入って、職人の方々と協力しながら、課題を解決していった。

「その他にも、現地据付のクレーン容量を越えないための軽量化、現地据付/メンテナンスへの配慮、軸強度のアップなど、様々な課題がありましたが、一つひとつ理論的に検討して解決していきました」。

こうして未知、未踏の領域へのチャレンジは、Yをはじめとしたエンジニアたちの努力によって、着実に進んでいったのだ。

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Phase3完成。そして新たなチャレンジへ

現在、Yが設計したポンプは、既に据付が完了し商業運転が行われている。しかし、ここからが本領発揮だとYは考えている。

「本ポンプの稼働実績は、客先の高い評価につながるものと確認しています。その実績は、世界をリードする荏原の技術力を示し、間違いなく次の市場の開拓につながっていくはずです」。

実は、このプロジェクトと同時進行で、Yは中東向けLNG液化プラントに送水する海水クーリングポンプの設計も手がけていた。ラスベガスの縦型カスタムポンプ受注額は、約30億円。中東向けクーリングポンプの受注総額は100億円を超えるものだったという。これらの受注は、荏原のポンプ技術への世界からの評価だといえる。

「今後も、ポンプのプロフェッショナルとして、社会基盤を支える仕事に貢献し続けていきたい。もちろん、その対象は全世界です。あらゆる国の社会インフラを支えるプロジェクトに挑み続けたいですね。そして、生み出した実績が次なるビジネスチャンスを切り拓けるようでありたいし、もっと欲張るなら、世界のポンプ市場動向を変えるような製品を荏原から発信したいです」。

クールな雰囲気から一転、熱く語るYの佇まいは、熱血エンジニアそのものである。そこには荏原がこれからも永遠に求め続けるであろうエンジニアの理想像があった。