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Project 2 革新に挑む

時代の先へ、そして技術の極限へ
技術者が解き明かす「荏原らしさ」。 「みんなのドライポンプ活動」プロジェクト

荏原製作所のものづくりにおけるブレークスルー。それは、最前線の技術者たちの高い志と行動力、そしてどんな逆境にも負けないという熱い心によって支えられている。精密・電子事業カンパニーのコアとも呼べるドライ真空ポンプの生産現場において成し遂げられたイノベーションについて、その中心となった技術者の言葉をもとに紹介しよう。

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F.T/精密・電子事業カンパニー
生産システム統括部/1996年入社

産業用機械エンジニアコース
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Phase1それは前例のない挑戦だった

“逆境こそ変革のチャンスだ。思い切ったイノベーションを起こそう”

2009年7月1日、キックオフミーティングに集まった約200人の仲間の顔を見ながら、Fは改めて生産革新への意を強くしていた。

そのおよそ1年前、リーマン・ショックで半導体産業が低迷したあおりを受け、ドライ真空ポンプ部門も低迷した。生産現場は重苦しい空気に包まれていた。だが、誰もが先行きに対して不安を抱く中、Fはむしろ今が行動の時だと受け止めていたのである。

「もともと半導体は需要変動が激しい業界です。しかし、当社の生産ラインはそれに対応できる体質にはなく、無駄が多いと感じていました。ラインが止まった今こそ根底から体質を変える好機だと考えたのです」

Fと思いを同じくする同志が集まり、ドライ真空ポンプの生産ラインに「トヨタ生産方式」を導入するという生産革新活動の骨子を固める。その活動は「みんなのドライポンプ活動」(みんどら活動)と名付けられた。そして、全体でのキックオフミーティングを経て、本格的に変革への取り組みがスタートしたのである。

だが、前例のない活動だったため、どこから手をつけていいかわからない。「トヨタ生産方式」の参考書を見ながら手探りで始めてみたものの、何ら成果は上がらなかった。キックオフこそ威勢がよかったものの、結果がついてこないとなると、現場の志気も自然と下がってくる。皮肉屋のある古参作業員に、すれ違いざま「どうせ上手くいかないんだろ」と耳打ちされたのも、そんなふうにFが悪戦苦闘を続けていたときだった。

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Phase2常に前を向き、行動を続ける

「確かに結果は出ていませんでした。ただ、落ち込むことはなかったですね。きっと上手くいく、自分たちなら絶対できるという自信はありました。とことん前向きなのが、私の持ち味なんです」

ただ改革を口にするだけでなく、Fは自ら先頭に立って行動することを心がけていた。ラインの組み替えを行うときも率先してラインに立ち、汗を流しながら作業をした。笑顔を絶やさず、何とか結果を出そうと現場で動き回るFの姿が作業員たちの心を前向きなものに変えていったのは、間違いない。

そんなFの背中を押したのは、外部からやってきたあるコンサルタントの存在だった。大手電機メーカーの社員でもあるそのコンサルタントは、自ら生産革新に取り組んだ経験のもと、Fたちに「私たちができたんだから、Fさんにもできますよ。そのまま続けて大丈夫」と言葉を送った。それを受けてFも「これでいいんだ。もっと思い切ってやってみよう」と、取り組みを加速させたのである。

そして、ついに「みんどら活動」は大きな一歩を踏み出す。

2010年12月、最終組立工程である「出荷準備工程」を1台流しと呼ばれる方式に変えたところ、劇的な成果が上がったのだ。それまで最終組立工程には作業の遅れのしわ寄せが来て、100個近くものポンプが滞留。作業員は深夜までトラックに積み込む作業に追われていた。それが1台流し方式に変えたことによって滞留は激減。残業もほとんどせずに出荷作業ができるようになったのである。まさに革新、イノベーションが起きたのだ。

この結果を目の当たりにして、現場の空気は一変した。「やればできる」「オレたちにも変えられる」。1台流しの方式は次々と他のラインにも広がっていき、最終的に受注生産の全工程が1台流しになり、製造リードタイムが半減したのである。

「例の古株の作業員が、ある飲み会の席で私にぽつりと“今までと違う。やればできるんだな”と私に言ってくれたんです。これは嬉しかったですねえ」

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Phase3正解はない。だから走りながら考えろ

それまで1年近く悪戦苦闘を続けても結果が出なかったのに、なぜここへ来て劇的な成果が得られたのか。それについてFは次のように振り返っている。

「前は準備に時間をかけすぎていました。そうではなくて、準備は70%でいいから、とにかくやってみる、後は走りながら考えよう、と切り換えたんです。それがよかった。改革には、とにかく行動することが重要なのだと学びました」

持ち前の前向きな姿勢にそんなスピード感覚が加わったことがよかったのだろう。1台流しでの成功をステップボードに、Fたちの「みんどら活動」は、さらに革新のために次々と手を打っていった。中には約20年間も使い続けてきたラインを解体してまったく新しいものに作り替えるというドラスティックな取り組みもあった。この時はさすがにベテランの作業員たちが心理的な抵抗を見せ、Fも「ライン組み替えの前夜はうまくいくか心配で眠れなかった」そうだが、勇気を持ってやりきった。また、生産現場だけでなく営業をも巻き込んだ改革にも着手。その範囲をさらに広げている。

例のコンサルタントは途中で任を離れたものの、機を見ては「みんどら活動」に顔を出して「よく続いている。想像以上の成果」と感心している。

「生産革新には正解はなく、今も私たちの取り組みは道半ばです。目標は生産性を2倍にすること。まだ挑戦は続けていきます」とF。

この一連の成果をベースに、「みんどら活動」を横展開すべく、現在、台湾の生産拠点でも同様の取り組みを行っている。ちなみに「みんどら」には現地では「明多楽」という字を当てているそうだが、それはFの「イノベーションは、明るく、楽しく取り組んでこそ、大きな成果が得られる」という信念にも通じる表現だ。