高野 和夫* Kazuo TAKANO
濱中 隆* Takashi HAMANAKA
松岡 慶* Kei MATSUOKA
*
荏原環境プラント㈱
当社では,ごみ焼却施設の運用の更なる安定化・高度化に向けて,2016年6月に㈱荏原製作所 藤沢事業所内に藤沢遠隔サポートセンター(以下,FSC)を開設し,ごみ焼却施設のリアルタイムでの運転支援サービスを開始した。また,2018年6月には本社(羽田事業所)内に羽田テクニカルサポートセンター(以下,TSC)を開設し,本社に常駐する専門技術者による制御パラメータ調整,BIツールを活用した運転状態評価支援システムの開発や,ウェアラブルカメラ等のICT技術を活用したメンテナンス業務の遠隔サポートを開始している。本稿では,FSC及びTSCの概要,構成,機能,運用実績,将来への展望について紹介する。
In the aim of more stable and sophisticated operation of waste incineration facilities, we established the Fujisawa Remote Support Center (hereinafter, “FSC”) in the Fujisawa District of Ebara Corporation in June 2016 and started real-time operation support services for waste incineration facilities. We also established the Haneda Technical Support Center (hereinafter, “TSC”) in the head office (Haneda Office) in June 2018 and started control parameter adjustment by professional engineers stationed in the head office, the development of operation status evaluation support systems using BI tools, and remote support for maintenance operations using wearable cameras and other types of ICT. Here, we give an overview of the FSC and the TSC, their configurations, functions, and past operation performance, as well as the future outlook.
Keywords: Waste incinerator, Remote support, Wearable camera
近年,ごみ処理施設の運営ではDBO(Design build operate)などの民間企業への長期包括委託契約が主流となりつつある。これに伴い,運営事業の受託者である民間企業には,排ガス規制値や処理量などの契約事項の遵守,計画外停止やプラント能力低下を招かない適切なメンテナンス,計画に則った発電やユーティリティの使用など,長期間にわたって高度な現場管理を行うことが求められている。
こうした要求に応えるため,当社では2016年6月に㈱荏原製作所 藤沢事業所内に藤沢遠隔サポートセンター(以下,FSC),さらに2018年6月には本社(羽田事業所)内に羽田テクニカルサポートセンター(以下,TSC)を開設した。
FSC及びTSCによる遠隔サポートの体制を図1に示す。FSCでは,遠隔での運転サポート業務専属のオペレータを配置し,リアルタイムでの運転支援を行い,TSCでは,本社常駐の専門技術者が制御パラメータの調整やメンテナンスサポートなどを行っている。それぞれの立地の利点を生かして機能を分担し,遠隔サポートを行っている。
図1 遠隔サポートの体制
FSC及びTSCのシステム構成を図2に示す。各ネットワークは光回線による高速インターネットVPN(Virtual Private Network)を用い,外部とのインターネット接続を行わない構成とし,セキュリティ対策を講じている。
各プラントのデータは定期的にFSC及びTSCからアクセス可能なサーバに保存される。表1にそれらの概要を示す。
図2 システム構成
〔1〕
遠隔モニタリング機能
FSC及びTSCでは,各施設のDCS(Distributed Control System)と同じ画面(プラントフロー・トレンドチャート・各種計測値・警報リスト等)を表示することができ,各施設のプラント各部の温度・圧力・流量や機器の運転状況等をモニタリングすることができる。また,燃焼状態や機器の運転状況,施設内の状況等をITV(industrial television)の映像でリアルタイムに確認することができる。DCS画面とITV映像を併用することで,複合的な情報に基づいた正確な遠隔サポートが可能となる。
〔2〕
ITVモニタリング機能
前述のように,各施設のITV映像をリアルタイムで表示する機能である。各施設のITV映像は映像データとして蓄積され,蓄積された映像データは過去の運転状況を解析する場合に利用することができる。
また,各施設のオペレータが装着するウェアラブルカメラなどからの映像も表示や保存が可能である。今後さらなる高機能化が期待される様々なICT(Information and Communication Technology)機器を利用した遠隔サポートへの拡張も考慮したシステムを構成している。
〔3〕
データ保存機能
FSC及びTSCのデータ保存機能を表2に示す。各プラントの各種イベントデータ(帳票データ,警報データ,現在値データなど)を定期的に受信し,遠隔サポートセンターのデータサーバに保存している。
FSCに運転サポート業務専属のプラントオペレータが常駐している。本社の運転技術部門と連携し,各施設のごみ焼却運転が適切になされているか遠隔サポートしている(図3)。以下に主なサポート内容を紹介する。
図3 藤沢遠隔サポートセンター
〔1〕
警報監視
各施設では,異常値・警報等の見逃しやオペレーションミスが発生する場合がある。FSCでは,各施設の重要な警報を各施設のサーバから抽出しており,重要警報発報時に各施設で適切な対応が行われているかをモニタリングしている。
〔2〕
警報管理
運転上,警報は異常検知に必要な情報である。しかしながら重要度の低い警報があると,重要度の高い警報も軽視してしまうリスクにつながる。このため,週単位で,警報の発生回数,警報とその実現象を分析し(図4),対応要否を整理し,致命度の低い警報を抑止することにつながった。運転管理の品質向上を図っている。また,ある警報の発生頻度に増加傾向が見られる場合は,ごみ質の変化や設備などの異常が発生している可能性がある。そのため,警報の発生頻度に増加傾向が見られた場合は,原因を調査し,設備のメンテナンスや運転パラメータの変更などの対処を行っている。
図4 警報管理例
〔3〕
運転状態の評価
ごみ処理量,排ガス中有害成分濃度,ユーティリティ使用量などの,運転管理上重要な指標について週単位で評価し,各施設に対して週間レポートを発行している(図1,図5)。管理指標の数値が悪化した場合は,設備異常などの原因を調査し対処を行う。従来は月報により月単位で行ってきた運転状況の把握及び管理が週単位で行うようにし,早期の改善ができるようになった。
図5 運転状態評価例
〔4〕
操炉の標準化
ごみ焼却施設の運転においては,ごみ質の著しい変動などにより自動制御で対応可能な範囲を逸脱した際,オペレータが手動介入して操炉を行う場合がある。こうした場合には標準に則った操炉が行われることにより,誰が操炉しても運転の品質が保たれることが重要である。
手動介入時にオペレータが標準に則った操炉を行っているか週単位で評価している。適切な手動介入が行われるように各施設のオペレータの育成を行うとともに,オペレータの知見も取り入れ,定期的に操炉標準の見直しや改定を行っている。
また,手動介入操作のうち自動化が可能なものについては設計部門と連携し,ACC(Auto Combustion Control)のさらなる高機能化及び稼働率の向上を実現している。
各施設の日々の運転業務をFSCが支援するのに対し, TSCは,本社に常駐する設計部門,制御調整部門,及びメンテナンス部門の専門技術者が現地に迅速な対応を行うための拠点である(図6)。
図6 羽田テクニカルサポートセンター
〔1〕
制御調整の効率化
プラントの自動制御に係る様々な制御パラメータの設定や調整作業は,建設工事の最終段階から試運転期間にかけて,専門技術者が現地で実施する。性能試験を経てプラントの竣工引渡しとなるが,その後もごみ質の変化等に応じて,制御パラメータの調整が必要となるケースがある。従来は専門技術者が現地に赴いて調整作業を行っていたが,作業時間がどうしても限られるため,長期的な評価が難しく調整不足になるケースがあった。
こうした課題に対して,専門技術者がTSCで調整を行うことにより,対象施設からの調整ニーズに対して迅速に対応することが可能となった。また,FSCの週間レポートに基づき長期的な評価が可能となり,調整の適正化,効率化を図ることが可能となっている。
〔2〕
運転状態評価の高度化
FSCで行っている運転状態の管理指標の定量的評価(前節〔3〕参照)においては,プラント各部の温度や排ガス中有害物質濃度などの管理指標について,管理限界に基づいて運転状態の良否判定を行っている。また,運転状態の改善が必要な場合にどのような対策を採る必要があるか,様々な運転データを参照して総合的に判断した上で対策を提示している。
今後,遠隔サポートの対象施設数が増えてくると,こうした評価及び改善提案の作業を効率化・標準化する必要がある。そのため,BI(Business Intelligence)ツールを活用した運転状態評価支援システムの開発を進めている(図7)。
具体的には,プラント各部の温度や排ガス中有害物質濃度などの重要管理指標の増減に対して,その要因分析及び関連する運転データのトレンド表示を対話的にかつ素早く行うことができるシステムを構築し,FSCの専属オペレータが迅速に要因分析作業を行えるようにすることを目指している。また,分析結果の蓄積により,ある事象の発生頻度や発生要因について,経時変化や異なる施設との比較も含めて統計的に解析することが可能となるため,運転技術の標準化や施設の経年変化を考慮した適切な運転指針の確立にも貢献できるものと考えている。
本システムの開発に際しては,特に管理限界の設定や要因分析手法の確立において,本社に常駐するプロセス技術者の知見と,FSC・TSCに蓄積されてきた運転データの統計解析結果とを融合させることで,実際的でかつ統計的根拠に裏付けられたシステムとすることを志向している。
将来に向けては,本システムと様々な統計的機械学習手法を組み合わせることにより,運転状態の評価だけでなく,例えば異常の発生予測やその回避手法の提示,ユーティリティ消費量の最小化や発電量の最大化などによる施設運営コストの低減にも貢献できるシステムの構築を目指している。
図7 運転状態評価支援システム画面(イメージ)
〔3〕
ウェアラブルカメラによるメンテナンス支援
各施設のオペレータや保全員が装着するウェアラブルカメラからの映像・音声を,TSC側の専門技術者とリアルタイムに共有できるシステムである。このシステムを活用することで,各施設に対して遠隔での点検サポートや緊急時のメンテナンスサポートを行うことができる(図8)。
なお,ウェアラブルカメラはヘルメットに装着されているため,ハンズフリーの状態でTSCと通信でき,現場内移動や作業中も手を塞ぐことなく利用できる利点がある(図9)。
ウェアラブルカメラを活用した遠隔でのメンテナンスサポートの一例を以下に示す。図10はある施設でスクリューコンベヤが破損し運転停止に至った事例において,スクリュー軸の状況を現地のオペレータが撮影し,TSC側で受信した映像である。スクリュー軸表面の付着物や腐食状況まで判別できる。
また,TSC側からは図11に示すように,映像内にマーキングを行うことにより,現地で詳細を確認してほしい部位などを的確かつ対話的に指示できる機能も有している。
運転停止など急を要する事象が生じた場合,従来は本社のメンテナンス部門の専門技術者が現地に赴き,状況確認や情報収集を行い,帰社後にその情報をもとに対策を検討していたため,事象の発生から対策の立案までに最短でも2~3日間は要していた。
本事例では,TSCで各部門の専門技術者が即座に集まり,現場のウェアラブルカメラから送られてくる映像をもとに原因を推定することにより,数時間で応急対策と恒久対策の立案を完了することができた。本システムが,通常運転時における現場とFSC・TSCとの間の円滑な情報伝達だけでなく,機器の故障時など,迅速に対応することが可能となり,運転継続や計画外停止の回避が要求される場合において,特に効果的であると考える。
図8 ウェアラブルカメラのシステム構成
図9 ウェアラブルカメラ使用例
図10 ウェアラブルカメラ映像例
図11 マーキングによる現地への指示
本稿では,ごみ焼却施設の運用のさらなる安定化・高度化に向けて当社が行っている,FSC及びTSCを活用した遠隔サポートの運用状況について紹介した。
これまでの運用を通じて確認された遠隔サポートの効果として,以下が挙げられる。
①
運転品質の向上
これまで現場に任されがちであった操炉の状況が定量的に明らかになるとともに,操炉の標準化がなされたことにより,運転品質が向上した。
②
運転管理指標の定量的評価の確立
各施設の運転状態,特に運転上重要な管理指標の推移が定量的にモニタリング・評価される仕組みが確立した。
③
問題解決の迅速化
②の結果を受けて,設備異常の改善や自動運転比率の向上など,問題解決の迅速化が図られた。
④
対処の迅速化
従来は本社の専門技術者が出張対応していた現地調査や制御調整等の業務を本社にて行うことが可能となり,対処の迅速化及び業務の効率化が実現した。
これらの効果により,従来は施設毎の独自の経験や知見をもとになされていた運転・操炉管理を,他施設での経験や知見も踏まえ,かつ科学的な根拠に基づいた全社標準としての管理手法へと変革させることが実現できたと考えている。また,その運用を通じて,各施設の運転状況や問題解決に関する情報を,設計・運転技術・メンテナンス等の社内関連部門と迅速に共有し,全社的な改善のサイクルを効果的に回すことが可能となった。
将来に向けた展望としては,さらに今後以下の取組を進める予定である。
①
災害時等の緊急対応システムの確立
災害時等の緊急対応については,現場での復旧作業に各施設の人員が割かれることにより,各施設で運転業務に携わる人員の確保が困難になることが予想される。将来的に想定されるこのような事態に対してFSCから的確なサポートを行うための1つの可能性として,FSC側からの操炉訓練を実施している。今後,災害等が発生した際のシステムの健全性の確保などハード面の充実や,操炉等に係る現場・FSC間の権限委譲ルールなどソフト面の充実を図り,お客様にとって一層安心・安全な施設運営が可能となる支援システムとして確立したいと考えている。
②
運転データのメンテナンスへの活用
これまで,FSC及びTSCに蓄積された運転データは,主に運転技術の標準化や操炉の安定化を主目的に活用されてきた。これからは各機器の運転状態の推移や警報の発生履歴と,当該機器のメンテナンス記録との相関性にも着目し,設備トラブル回避につながる運転データ活用も進めていく。
③
発電施設としての管理業務の支援
ごみ焼却発電施設における送電出力は,ごみ質の変化の影響や付帯設備の運転・停止等の影響による変動が避けられない。そのため,電力自由化に伴う計画値同時同量制度への対応として,各施設では直近の操業履歴に基づいて,将来の送電出力の変動を的確に予測した上で,信頼性のある送電計画を作成する必要がある。当社では,各施設の操業データに基づいて統計的手法により送電計画を自動で作成するシステムを既に実用化しており,今後は同システムをFSC・TSCでの運転状態評価支援システムとも連携させることにより,送電計画の一層の高精度化や,複数の焼却発電施設の連携による電力需給管理の可能性についても検討を進める予定である。
④
操炉の省人化・自動化への貢献
当社ではディープラーニングを活用したごみ識別AI搭載自動クレーンシステム(本号掲載の「ごみ識別AI搭載自動クレーンシステム」参照)の開発など,ごみ焼却施設の自動運転技術の実用化を進めているが,将来の施設運転の完全自動化に向けて,操炉業務のさらなる省人化・自動化技術の開発にも着手している。3-1節で述べたFSCにおける様々な取組は,自動操炉技術の確立にあたっての基礎データを与えるものであり,特に警報履歴や手動介入履歴に関して蓄積されている膨大なデータに対して,近年進展が著しい様々な機械学習手法を適用することにより,状況に応じて取るべき操作を自律的に判断できるシステムを構築可能であると考えており,目下鋭意取組を進めている。
⑤
サポート業務の省力化
当社では,今後の長期包括案件において遠隔サポートを運営体制の一部として位置づけている。現在は8施設に対して遠隔サポートを行っているが,今年度中に2施設で新たに遠隔サポートを開始する予定であり,今後,新規DBO案件の増加に伴い,対象施設数は年々増大する予定である。したがって,3-2節で述べた運転状態評価支援システムのさらなる高機能化を行い,3-1節で述べた警報管理や運転状態評価等のプロセスを極力自動化・省力化するなど,対象施設数の増加に対してもサポート品質を低下させず,より的確かつタイムリーなサポートを安定して提供できるようにするためのサービス開発を進めていく。
労働人口減少に伴う慢性的な人材不足や熟練人材の引退,また地方財政のひっ迫などにより,廃棄物処理事業においては一層の効率化が求められている。こうした中で,契約事項や法規制等を遵守した安心・安全・安定な施設運営を継続し,社会的責任や地域への貢献を果たしていくためには,ICTやIoT等の最新技術を最大限に活用することが不可欠であると考えている。
本稿で紹介したFSC及びTSCを活用した遠隔サポートは,上記の要求に応えるべく当社が実践している様々な取組を代表するものである。今後もサポート体制の充実を図り,社会のニーズや,顧客からの期待に応えていく所存である。
1) 黒澤和重,高野和夫,小池博美,ごみ処理施設の遠隔サポートセンターの運用,エバラ時報,254号,p58-61(2017-10).
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