藤澤 宏行*
Hiroyuki FUJISAWA
松山 哲也*
Tetsuya MATSUYAMA
*
風水力機械カンパニー 事業開発統括部 新事業開発部
石油精製・石油化学業界向けプロセスポンプUCWC型の販売を2019年8月から開始した。本製品は,シールレスポンプに関するアメリカ石油協会規格API685に準拠しており,信頼性が高い構造となっている。また,完全無漏洩という特徴を生かし,主に危険な液体(可燃性液体,毒性液体)を取り扱う石油精製・石油化学市場での幅広いアプリケーションに対して本製品を提案することで,安全性に配慮し,環境負荷を低減し且つプラント運転の経済性向上に寄与する。
Sales of the process pump model UCWC for the refinery and petrochemical industry began in August 2019. This product, conforming to API685, the international standard for seal-less pumps, is highly reliable. In addition, taking advantage of the feature of complete non-leakage, the product is offered for a wide range of applications in the refinery and petrochemical industry markets, which mainly handle hazardous liquids (flammable and hazardous liquids), safely and environmental soundly contributing to economical plant operation.
Keywords: Canned motor pump, Complete non-leakage, Environmental loading reduction, Conforming to API685
当社は,2019年に石油精製・石油化学業界向けプロセスポンプUCWC型を㈱帝国電機製作所(以下:帝国電機)と共同開発し,市場に投入した(図1)。UCWC型は従来のUCW型に対し,メカニカルシール・シールシステムをもたず完全な無漏洩という大きな差別化要素を有している。
本製品の特徴は,石油精製・石油化学業界向けプロセスポンプとして数多くの実績があるUCW型ポンプのポンプ部とモータ部を一体化(キャンド化)することで,完全無漏洩を実現していることである。これにより液漏れの心配がなく,環境負荷低減に寄与する。また,回転部の露出がなく,安全性にも配慮されている。さらに,シールシステムや付帯配管がないことによりプラント建設におけるコストダウンが可能であることや,ユーザによるメカニカルシール用中間液の管理や補充が不要であるなど経済的なプラント運転に寄与できる。
近年の世界の石油化学製品を巡る状況としては,2008年,2012年の世界的景気減速を受けた需要減退から持ち直し,現在も需要が増進し続けている。特に中国市場での需要が顕著であり,石油化学基礎製品の製造プロセスに使用されるAPIプロセスポンプの需要も今後数年は続くと予想される。API610に準拠したUCW型と併せて,今後はAPI685に準拠したキャンドモータポンプUCWC型を市場に投入することで,それぞれの製品特徴を生かしたプロセスポンプの提案が可能となる。
本稿では,キャンドモータポンプUCWC型の特徴と概要を紹介する。
図1 キャンドモータポンプUCWC型
本製品は石油精製・石油化学業界向けのプロセスポンプに対するアメリカ石油協会の技術規格「API685」に準拠している。
本製品は,軸封部がないため,可燃性液体,毒性液体,高温・低温液体などの危険な液体や環境を汚染する液体など漏れては困る液体の取り扱いに適している。更に軸封部をなくすことにより軸封のための小配管や複雑なシールシステムが不要となり,液漏れのリスク低減になっている。 また,回転部の露出がないため,巻き込まれ事故防止用の保護カバーが不要となる。加えて,モータには保護装置が付いており,機器保護も十分に配慮されている。
近年,安全性や環境負荷低減の要求からプロセス用途のメカニカルシールはダブル型が主流となっており,多くのプロセスポンプにシールシステムが付帯する。更には漏洩を回収・検知するためにシールシステムはより複雑化している。
本キャンドモータポンプUCWC型は,モータ軸がポンプ軸を兼ねているため,ポンプとモータは一体構造となり,従来のモータ直結駆動型ポンプに比べ小型・軽量となっている。また,メカニカルシールやシールシステムを付帯しないため,より一層の省スペースを実現している。図2に代表モデルでの比較例を示す。設置面積は約70 %削減,体積は約90 %削減となり,既存モデルに対しコンパクトサイズを実現している。
図2 ポンプサイズ比較(代表モデル)
ポンプとモータが一体構造のため,プラント建設時,現地での直結・心出し作業が不要となり,ポンプ据付から運転までの作業を短縮することが可能となる。また,プラントの定期修理において,ポンプメンテナンス期間の短縮やポンプの直結作業に起因する不適合のリスク低減にも寄与する。
キャンドモータポンプUCWC型の製品仕様を表1に示す。 50 Hz,60 Hzの選定範囲を図3と図4に示す。
機種 | UCWC型 | |
取扱液 | 石油化学プロセス液 | |
耐圧 | 4.0 MPa | |
取扱液温度 | ‒100 ℃~450 ℃ | |
吐出し量 | ~610 m3/h | |
構造 | ケーシング | エンドトップ |
羽根車 | クローズド | |
軸受 | すべり軸受(モータ内) | |
吸込口径 | 40~200 mm | |
材料 | ケーシング | SCS14 |
羽根車 | SCS14 | |
接液部主材料 | SUS316 | |
ステータキャン | ALLOY-C276 | |
ロータキャン | SUS316L | |
ベアリング | カーボングラファイト or高硬度カーボングラファイト |
|
スリーブ/カラー | SUS316+ステライトor SUS316+超硬 | |
モータフレーム | CS | |
電動機 | 機種 | FA-V,RA,BA |
防爆等級 | ⅡB,ⅡC | |
相/極 | 3相/2 P | |
出力 | ~120 kW | |
熱交換器 | 多管式 | |
規格対応 | API685 |
図3 性能範囲(50 Hz)
図4 性能範囲(60 Hz)
ポンプ構成図と断面図を図5,図6,部品表を表2に示す。UCWC型は主にケーシングと羽根車,アダプタ,主軸,モータから構成され,ポンプとモータが一体構造の完全密封圧力容器となっている。下記に特徴的な構造を示す。
① モータトルクを羽根車に伝達するカップリングがない。
② 軸受の潤滑とモータの冷却には自液を用いるため,潤滑油の必要がなく,モータの冷却ファンも不要。
③ 本機種ではアダプタによるポンプケーシングとモータとの接続方式を採用しており,様々なケーシングとモータの組み合わせが可能である。
図5 構成図
図6 断面図
表2 部品表
UCWC型ポンプは現地サイトにおいて吸込配管・吐出し配管からケーシングを外すことなく回転体を分解・点検できるバックプルアウト構造(B.P.O.形)である。
また,配管との取付寸法や接続フランジは当社の既存機種UCW型と同一としており,羽根車のハイドロ形状もUCW型と同一である。
UCW型ポンプのケーシングと共通ベースを転用したUCWC型へのリフォームの概略を図7に示す。本製品は当社既存ポンプUCW型と同一のケーシングを使用しているため,UCW型ポンプを短時間に,しかも比較的安価な費用でキャンドモータポンプUCWC型にリフォーム可能で,費用対効果が高い。
図7 リフォーム概略
キャンドモータは引火爆発の危険がある場所に設置されることが多いため,モータ本体と端子箱は耐圧防爆構造にしている。
固定子と巻線は,ポンプ取扱液から保護するために固定子の内側をキャンと呼ばれる非磁性の耐食性金属材料で覆われ,モータフレームに溶接して密閉されている。同様に回転子もポンプ取扱液から保護するために,固定子と同程度の材料のキャンで覆われ,主軸に溶接され密閉されている。
モータにはFA-V型【基本型】(図8),RA型【リバースサーキュレーション型】(図9),BA型【高温分離型】(図10)の3種類があり,用途に応じて選定が異なる。
FA-V型【基本型】は,キャンドモータポンプUCWC型の基本となる構造である。ケーシングとモータはアダプタを介して組み立てられる。軸受の潤滑及びモータの冷却はポンプ自己液で行い,ポンプ液は軸穴貫通部を通過しモータ後方部からケーシング内へ戻る構造となっている。
RA型【リバースサーキュレーション型】は,液化ガスや低沸点液などの気化し易い液を取り扱う場合に選定される。軸受の潤滑とモータの冷却を行った循環液は吸込タンクへ戻す構造とすることでポンプ吸込部でのキャビテーションを防いでいる。代表的な取扱液として,フロンや液体アンモニアなどが挙げられる。
BA型【高温分離型】は,熱水や熱媒体油などの高温の液体を取り扱う場合に選定される。高温のポンプ液体部とモータ部はアダプタの絞り部により分離されており,モータの冷却はクーラーを通過した循環液により行われる。そのため,モータはポンプ液温に影響されず,ポンプ液として最高450 ℃まで取り扱い可能である。
図8 FA-V型【基本型】
図9 RA型【リバースサーキュレーション型】
図10 BA型【高温分離型】
キャンドモータポンプUCWC型は,軸受の摩耗が限界を超えて進むとロータがステータキャンに接触し,場合によってはキャンが破れ,ステータの二次側に液体が侵入してモータ巻線が損傷するリスクがある。そのため,UCWC型では予知保全のため,軸の半径方向の摩耗を常時監視しモータの回転方向を検知する運転監視検知器を装備している。
荏原と帝国電機,両社のポンプ技術とキャンドモータ技術を融合したキャンドモータポンプUCWC型の特徴及び製品概要について説明した。荏原と帝国電機は協業体制を整え,製品面だけに留まらず,販売面においても情報を共有できる関係を構築し,多岐にわたる分野で協業体制を継続していく。今回の製品共同開発で得た技術と経験をもとに,今後も製品仕様範囲の拡充に努め,多くのユーザの要望に応える製品開発を進める所存である。最後に,この開発にご協力頂いた関係各位に深く感謝する。
UCWC型製品ページ
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