小林 宏次* Koji KOBAYASHI
趙 柄 来* Binglai ZHAO
張 建 東* Zhang JIANDONG
劉 金 栄* Liu JINRONG
朱 明 磊* Zhu MINGLEI
叢 鵬 飛* Cong PENGFEI
*
青島荏原環境設備有限公司
青島荏原環境設備有限公司は2020年10月,中国福建省厦門市の厦門東部二期ごみ焼却施設向けにストーカ式焼却炉を納入した。荏原グループは,これまで厦門市にストーカ式焼却炉2件の納入実績があり,本焼却炉はそれらに続く3件目である。施設規模は公称能力750 t/d×2炉=1 500 t/d,最大能力900 t/d×2炉=1 800 t/dであり,荏原グループのストーカ炉としては,現在建設・試運転中の設備も含め,1炉当たり最大の処理規模を有する。本稿では,本設備の概要・特徴と試運転での運転状況を紹介する。
荏原グループは,2020年10月に,中国福建省厦門市の厦門東部二期ごみ焼却施設向けにストーカ式焼却設備を納入した(図1)。
図1 厦門東部二期ごみ焼却施設 Fig. 1 Xiamen City east waste incineration plant II
本施設の公称能力は750 t/d(1炉1日当たり750トン)だが,契約上120 %負荷の連続運転が要求されているため,900 t/dの処理能力を有している。
本施設は,厦門市に納入した3件目の施設であり,最初に納入した厦門東部一期施設(公称能力300 t/d)に対し3倍,次に納入した厦門西部二期施設(公称能力625 t/d)の約1.4倍の処理能力を有する。納入済みの厦門東部一期,厦門西部二期の施設概要を表1に示す。
表1 厦門東部一期と厦門西部二期施設概要 Table 1 Xiamen East I & Xiamen West II Plant Summary
中国のごみは高含水率で灰分が非常に多いことが特徴である。当グループは,これまでの経験・実績からこの中国特有のごみ組成に対応したストーカ炉の設計技術を確立し,段階的に大型化の実績を積み重ねてきた。
厦門東部二期施設は,当グループの実績において最大規模の焼却炉設備であるが,焼却炉のスケールアップに関して,設計上の工夫や改良を行うことで,大規模かつ安定した施設の運転を実現した。
福建省厦門市は,中国における5つの経済特区の内の一つであり,副省級市に定められた中国東南部の中心都市である。また重要な貿易港を有しており,その美しい自然環境のおかげで「海上の庭園」と呼ばれている。
面積は1 700 km2,人口約516万人である。南亜熱帯海洋性季節風気候に属し,年平均気温は21 ℃,特に3月から9月は雨季となり,年間降水量の約80 %がこの時期に降る。雷雨・台風などの自然災害をうけることが多い。図2に,中国大陸における厦門市の位置を示す。
図2 中国大陸における福建省厦門市の位置 Fig. 2 Location of Xiamen City, Fujian in mainland China
厦門東部二期施設のごみ低位発熱量及びごみ組成の設計値を表2に示す。
項目 Item |
低質ごみ Low-calorific value refuse |
設計ごみ Design refuse |
高質ごみ High-calorific value refuse |
低位発熱量 Lower calorific value |
4 600 kJ/kg | 8 000 kJ/kg | 10 000 kJ/kg |
水分 Water content |
50.7 wt% | 40.3 wt% | 33.5 wt% |
可燃分 Combustible content |
28.3 wt% | 40.7 wt% | 48.4 wt% |
灰分 Ash content |
21.0 wt% | 19.0 wt% | 18.1 wt% |
厦門東部二期ごみ焼却施設の主な設備仕様を以下に示す。なお,②から⑤の設備については顧客所掌である。
①焼却炉
形式:HPCC®ストーカ式焼却炉※1(HPCC:High Pressure Combustion Control)
定格処理量:1 500 t/d(750 t/d×2炉)
最大処理量:1 800 t/d(900 t/d×2炉)
※1:HPCCは,荏原環境プラント㈱の日本における登録商標である。
②ボイラ
③蒸気タービン発電設備
④排ガス処理設備
排ガス処理方式:SNCR+半乾式有害ガス除去(消石灰スラリー噴霧)+乾式有害ガス除去(消石灰)+活性炭噴霧+バグフィルタ+湿式有害ガス除去+SCR
⑤煙突
⑥公害防止基準値〔煙突出口排ガス基準値〕
公害防止基準値は,当グループの保証範囲ではないが,参考の為に表3に示す。図3に本施設の設備フロー図を示す。
項 目 Item |
単 位 Unit |
規制値 Regulation value |
備 考 Remarks |
ばいじん Dust※2 |
mg/m3(NTP) mg/m3(NTP) |
5以下 4.5以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
硫黄酸化物 SOx※2 |
mg/m3(NTP) ppm |
10以下 3.1以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
窒素酸化物 NOx※2 |
mg/m3(NTP) ppm |
50以下 22以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
塩化水素 HCl※2 |
mg/m3(NTP) ppm |
5以下 2.76以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
一酸化炭素 CO※2 |
mg/m3(NTP) ppm |
50以下 36以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
ダイオキシン類 Dioxins※2 |
ng-TEQ/m3(NTP) ng-TEQ/m3(NTP) |
0.1以下 0.09以下 |
O211%換算値 O212%換算値 |
※2:各公害防止基準の2段目に,日本で使用される単位,標準酸素濃度で変換した値を示す。
図3 設備フロー図 Fig. 3 Process flow diagram of the facility
収集された生活ごみは,ごみピットに貯留され,水分の分離と発酵による温度上昇により乾燥し,発熱量が上昇する。その後,ごみクレーンを用いて,ごみホッパに投入され,給じん装置を介して焼却炉へ送られ,850 ℃以上の高温で焼却処理される。
焼却炉から発生した高温排ガスは,ボイラで熱回収され190 ℃まで降温し,半乾式反応塔で155 ℃まで冷却されると同時に,消石灰スラリーにより酸性物質を除去される。その後,煙道に噴霧された消石灰及び活性炭と混合され,酸性ガスの中和,重金属・ダイオキシン類の吸着が行われる。その後,バグフィルタで,飛灰,中和によって生成された塩類,活性炭によって吸着された重金属・ダイオキシン類が分離除去される。除塵された排ガスは,湿式有害ガス除去装置で酸性ガスをさらに除去され,その後,触媒反応塔で触媒反応により脱硝され,誘引送風機にて煙突から大気に放出される。
焼却炉から排出された焼却灰は,灰押出装置で冷却された後,灰ピットに移送されて一時貯留される。その後,灰クレーンにより灰搬出車に積載され,場外へ搬出される。
バグフィルタ等で捕集された飛灰は,コンベヤで灰サイロへ送られ一時貯留される。その後,飛灰処理装置で水,セメント及びキレート剤と混練された後,飛灰搬出車で埋立処分場へ搬送される。
日本国内向け施設と異なり,中国におけるごみ焼却施設の建設は,ごみ処理事業を請け負ったSPC※3が自ら行い,焼却プラントメーカは,焼却炉を含む主要機器の納入を行う。
※3:Special Purpose Companyの略で,事業運営を担う特定目的会社を示す。
厦門東部二期ごみ焼却施設の当グループ納入範囲は,焼却系統の基本設計(一部詳細設計を含む),主要機器(ストーカ式焼却炉,油圧装置,バーナ,送風機,コンベア,ACC,ごみホッパレベル計)の納入及び,スーパーバイザ派遣である。
2017年8月,当グループはSPCと,厦門東部二期施設に関する正式契約を行い,2020年10月に,72+24時間試験※4を終え,設備の納入を完了した。詳細な建設スケジュールを表4に示す。
※4:72+24時間試験とは,火力発キャンセル電所の試験検証方法であり,連続的な72+24時間の定格処理運転を行う中国独自の試験のことである。
表4 建設スケジュール Table 4 Construction schedule
契約後,速やかに設計業務を開始し,2020年7月に当グループ納入設備の据付が完了した。図4にストーカの据付状況,図5に給じん装置の据付状況を示す。
図4 ストーカ据付状況 Fig. 4 Stoker installation
図5 給じん装置据付状況 Fig. 5 Waste feeder installation
2020年6月から8月末に施設全体の無負荷試運転を実施し,2020年9月からごみを投入し負荷試運転を開始した。そして「72+24時間試験」を2020年10月2日開始し,10月6日に完了した。
本施設に納入した焼却設備は,当グループが納入した焼却設備の中で世界最大の900 t/dの処理量を有する第1号機であり,大型化に対応するため,従来の設計から改良を行った。
当グループの大型ストーカ式焼却炉は,処理量に応じて,幅方向に複数のユニットを組み合わせた構造を採用している。ユニットの接合部に独自の熱膨張吸収機構を設け,運転時の熱膨張に対応することで,焼却炉の大型化を可能としている。
本施設では,幅方向に4つのユニットを組み合わせた4列(4ラン)型ストーカ炉を採用した。各列(ラン)は,ごみの進行方向に乾燥ストーカ,燃焼ストーカ I,燃焼ストーカ II,後燃焼ストーカに分割されており,各ストーカは独立して駆動し,作動回数を個別に設定することができる。
当グループは既に中国国内の焼却施設向けに,4ラン型ストーカ炉を複数納入済みであるが,本施設では高含水率かつ灰分が非常に多い中国のごみ性状に対応し,燃焼効率を上げるための工夫を幾つか行った。
ごみを輸送し易くするため,乾燥ストーカ及び燃焼ストーカ Iに傾斜型ストーカを採用した。また,ごみを完全燃焼し,灰の熱しゃく減量を下げるため,燃焼ストーカ IIと後燃焼ストーカには水平型ストーカを採用するとともに,ストーカの全長を従来よりも長くした。
さらに,中国の燃えにくいごみに対応するため,ごみをほぐして燃焼を促進するための段差を,乾燥ストーカ出口と,燃焼ストーカ I出口に設けた。
本施設のストーカ構造を図6に示す。
図6 4ラン傾斜付延長型ストーカ焼却炉の構造 Fig. 6 The structure of 4-row Slope Attached Long type grate-type incinerator
ごみの燃焼に必要な空気は,ストーカ下部の炉下シュートから供給し,各シュートの空気量を個別に変更することができる。ごみの性状や処理量の変化に応じて,各ストーカの作動回数,各シュートの燃焼空気量を調整することで,幅広いごみ性状に対応して,安定燃焼を実現することが可能である。
負荷試運転においては,ごみピットに搬入されたごみを5から7日間貯留し,ごみの発熱量を上昇させてから,炉内に投入した。
焼却炉に投入されたごみの低位発熱量(72+24時間の定格処理試運転時の分析値)は,平均7 500kJ/kg(6 800~8 600kJ/kg)程度であり,設計ごみ質8 000kJ/kgに近かった。ごみ組成は,重量比で灰分が約17%,水分が約52%,可燃分が約31%であった。
約1か月間の負荷試運転において,ストーカ炉の機械的機能に問題は無く,安定した運転を確認することができた。
炉内の燃焼状況も良好であり,約12m幅のストーカ上で均一な燃焼完結点を維持することができた。炉出口温度も最適な950〜1 050 ℃の高温を保持し,高温ガスの滞留時間も設計条件以上であることを確認した。
図7に本施設の燃焼状況,図8に負荷試運転における,焼却炉出口温度と蒸発量を示す。
図7 炉内燃焼状況 Fig. 7 Situation of combustion
図8 炉出口温度,蒸発量トレンド Fig. 8 Trend of furnace outlet temperature and steam generation
本施設では,定格処理量750 t/dに対し,1日24時間の120 %負荷運転が要求されており,実質的な施設規模は,最大処理量である900 t/dとなる。
1か月間の負荷試運転の実績では,最大処理量900 t/dを超える運転を行った日数は約四分の一であり,平均処理量は869 t/d(定格処理量の116 %負荷),最大処理量は1 118 t/d(定格処理量の149 %負荷,最大処理量の124 %負荷)であった(中国では,過負荷運転に対する法的な規制はなく,設備の安全を確保した上で過負荷連続運転を行うことができる)。
主灰の熱しゃく減量も低く,1か月間の実績では,平均1.31 %,最大2.5 %であった。
図9に,負荷試運転時の焼却量の実績を示す。
図9 1か月間の焼却量 Fig. 9 The waste incineration amount in 1 month
本施設は2020年10月に72+24時間試験を完了し,その後も順調に運転を継続している。
本施設に納入した焼却炉は,当グループ初の1炉当たり最大処理量900 t/dを有する大型ストーカ焼却炉である。中国のごみに十分適応し,安定運転を実現するとともに,1炉当たり1 000 t/dを超える大型化に向けた知見と実績を得ることができた。
中国におけるごみ焼却施設の建設は,沿岸部の大都市から,内陸部の中小都市にも広がり始めており,多様な施設規模に応じた,高性能の焼却設備が求められている。
当グループは,これまでの経験を基に技術改良を重ね,中国市場の要望に応えていく所存である。
最後に,本プロジェクトにご協力頂いた全ての関係者の方々に深く感謝する。
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