荏原は、ポンプや半導体製造装置といった“ものづくり”に加え、それらの製品から得られるデータを活用して、お客さまの困りごとに向き合うソフトウェアやソリューションも提供しています。“ものづくり”に対して“ことづくり”の分野と言えるでしょう。そのひとつが「EBARAメンテナンスクラウド」です。
EBARAメンテナンスクラウドは、ポンプや送風機、冷凍機など、日本全国のさまざまな場所で動いている荏原製品にワイヤレスセンサーをつけ、その稼働データをクラウド上でリアルタイムに遠隔監視するもの。センサーのデータをもとに、異変や故障の予兆をいち早く検知してメールなどで知らせるサービスです。
この開発を担当したのは、建築・産業カンパニー 開発統括部 ソリューション事業推進部 ソリューションシステム開発課の山田泰雅と、開発当時、製品企画部門に在籍していた、国内事業統括部 営業推進部 スマートソリューション課の小野文志。2人は「ものづくりやハードウェアに強い荏原だからこそ、価値あるソフトウェアを作れる」と言います。EBARAメンテナンスクラウドが生まれるまでの道のりや、ソフトウェア領域における「荏原ならではの強み」を聞きました。
<br><br>小野:お客さまが使われている荏原製品が故障や異常で止まってしまえば、当然ながら大きな影響が生まれます。商業施設や飲食店なら営業を停止する、工場なら操業を止めることにさえなるかもしれません。それらを回避するために、故障しにくい製品を作ることはもちろん重要ですが、一方で製品の異変や故障の予兆を、センサーデータを使って素早く検知できれば、事前に対処することも可能になるでしょう。そう考えて、このサービスを開発しました。
小野文志 建築・産業カンパニー 国内事業統括部 営業推進部 スマートソリューション課
荏原は全国に営業所や協力店があり、導入後の修理や点検といったアフターサービスに自信を持っています。クラウドを通じて、お客さまのもとにある製品の状態を私たちがつねに把握し、有事の際はすぐに該当エリアのスタッフが駆けつけて対応できれば大きな意義があるでしょう。すでにそのような事例も出ていますし、お客さまにとってはつねに「荏原が見守っている」という安心感が生まれるのではないでしょうか。
山田:私たちとしても、製品導入後の「お客さまとのつながり」を強くしたいという思いがありました。ポンプや送風機は、一般的には建設会社や設備会社、代理店を経由して導入され、その後、私たちが現場の製品を見るのは定期点検や修理などのときです。荏原の製品が現場でどのような使われ方をしているのか、どういった稼働状況なのか、もっと知る機会を作りたかったのです。それが、より良い次の製品を作るアイデアやお客さまの新たな課題を把握することにもなるでしょう。
小野:ものづくりなら荏原は100年以上の歴史があり、どういう製品が市場に求められているのか知見がありますが、クラウドやソフトウェアを作った例は少なく、私自身も初めての挑戦でした。そこで、まずはお客さまのニーズを把握するところから始めましたし、そもそもどのようにニーズを収集するのか、すべてゼロから考えていく点で苦労しました。
<br><br><br>山田:開発中は、システムのプロトタイプをお客さまに使用していただきながら、その声を集めて反映・改善するサイクルを繰り返していきました。改善して実装して、お客さまの声を聞いてまた改善する。それもスピードを持って行う。そのサイクルを回し続けるのが一番大変でしたね。
山田泰雅 建築・産業カンパニー 開発統括部 ソリューション事業推進部 ソリューションシステム開発課
小野:ソフトウェアの特徴は、改善し続けられることにあります。むしろ見つかった課題をいかに早く改善できるか、そのスピードが勝負の分かれ目といっても過言ではありません。山田と日々議論しながらやってきました。
山田:時には厳しい要求も受けながら、でしたね(笑)。正式リリースしても「終わり」ではなく、むしろこれからが本番です。使っていただいたお客さまの声をもとに、システム改善をしていくサイクルは続いていくわけですから。
一方で、お客さまの声を聞きながら改善していく過程がやりがいにもなっています。なぜなら、使う中で実際に感じた効果や、このサービスが役に立ったことを、お客さまから直接伝えていただけますから。まだ誰も気づいていなかった異常を検知したことで「本当に助かった」とおっしゃっていただいたこともあります。
山田:今回のサービスは、センサーとクラウドさえあれば役に立つものができるわけではありません。たとえば、ポンプにどのような変化が起きたら異常なのか、異常と正常を分けるライン、通知を飛ばす閾値はどこに引くのか、これらを考えるには機器や製造現場に対する知見が必要です。センサーをつける場所も、適切なポイントを選ばなければ望むデータは取れません。製品や現場の基礎的なノウハウがあって役に立つシステムを作れるのであり、それを荏原は持っていますよね。さらに今後は、そのノウハウにAIの解析技術などを加えることで、より高度な状態監視が可能になるはずです。
小野:もうひとつ、荏原は全国に営業所や協力店があり、故障時のフォロー体制も万全に整えています。そういった荏原の“強み”と遠隔監視システムの相乗効果こそが大切ではないでしょうか。仮に故障を検知しても誰も対応できないのなら、お客さまの課題解決にはなりません。異常を検知するのはソフトウェアですが、その後の修理作業には人が必要です。両方を持っているからこそ意味があるのでしょう。
こういった荏原の強みを活かすためにも、今後ますますソフトウェア開発に力を入れていきたいですし、それに長けたエンジニアが増えるといいですね。産業機械とソフトウェアやIoTの組み合わせで社会は良くなる、そう考えている人にはやりがいのある会社だと思います。
小野:私は荏原にずっと在籍しており、かたや山田はキャリア採用です。他社で経験を積んだキャリア採用の人と一緒に仕事をすると、我々の“当たり前”が本当に正しいことなのか、もう一度考え直す機会になります。初心に戻れるとも言えるでしょう。このような人の交流がもっと起きればいいと思います。
山田:私のように外から来た人間にとって、ここは働きやすいと感じています。それぞれのエンジニアが持つ技術や知見を一人で抱え込まず、他の人にも積極的に共有してくれます。私たちの課内では、技術情報のデータベースを作って、スキルやノウハウの形式知化に取り組んでいますし、新しい技術の勉強会も定期的に開いています。
キャリアによる分け隔てもありませんし、単純な表現ですが、優しくて真面目な人が多いですね。社会の生活基盤や経済基盤を支える荏原製品のものづくりやことづくりは、社会的な意義も大きいと思います。将来を担っていく若い皆さんとも一緒に取り組んで行きたいと思います。
山田:センサーによるクラウド監視サービスによって、会社全体の業務をもっと改善できます。たとえば、センサーによって稼働状況がわかる製品が増えると、いま動いている荏原のポンプの総量や、その中で定期的な交換が迫っている製品の数がわかり、あらかじめ部品を発注することもできるでしょう。お客様へのサービス体制も整えることができ、それが1つのソリューションになるはずです。
小野:ソフトウェアやIoT、あるいはAIなどを取り入れることで、荏原はより良い会社になれると思いますし、そうしていきたいですね。しかしそれは、今までの営業スタイルや商流をとにかく新しい技術に置き換えるということではありません。先ほどのアフターサービスもそうですが、これまで培ってきたものにこそ荏原の良さや強みがあります。
大切なのはお客さまの利便性を第一に考えることであり、それを実現するために、今まで培った強みを生かしつつ、新しい技術を取り入れていきたいですね。その形を自分たちなりに模索していきたいと思います。
小野 文志(マーケティング)
建築・産業カンパニー
山田 泰雅(開発・設計)
建築・産業カンパニー
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