AIの進化が注目を集める中、長くものづくりを続けてきた荏原にも、AIを活用し、その技術によってデータ分析を行うデータサイエンティストがいます。全社横断でさまざまな事業・業務の課題をAIやデータで解決する社員、あるいは、客先に出向き、半導体製造装置のデータ分析を起点に困りごとを解消する社員、さらには、荏原のごみ焼却施設をAI技術で高度化する社員など、さまざまな方面でこの技術を活用している人材がおり、若い力も育っています。
そんな社員たちが日々意識しているのは、最初からAIを使うことを目的にせず、あくまで現場の課題を明確にしてから、その解決にAIでどう貢献できるかを考えること。詳しい話について、荏原でAIに関わっているコーポレート データストラテジーチーム データサイエンスセクションの河島圭佑、荏原環境プラント(株) 共通基盤本部 開発部 新技術開発課の町田隼也、精密・電子カンパニー 装置事業部 データサイエンス課の大曽根義将が意見を交わしていきます。
<br><br><br>河島: AIやデータ戦略をベースに、全社横断での課題解決を行うチームに所属しています。さまざまな事業部の製造領域からアフターサービス領域において、データを使った変革を進めるほか、事業部に閉じた課題だけでなく、事業部と事業部の間に存在する課題解決も部門の方と一緒に考えていきます。今は精密カンパニーのコンポーネント事業部との活動が多いですね。
河島 圭佑 データストラテジーチーム データサイエンスセクション
大曽根:私は、お客さまが使われる荏原の半導体製造装置について、装置から収集されたデータを分析して、お客さまの生産性向上や作業の効率化を検討しています。たとえば、装置の稼働パターンやトレンドをデータで把握して異常検知を行うなど。半導体とAI、ソフトウェアを掛け合わせて、お客さまの製造現場をより良くするのが目的です。
町田: 機械学習などのAIやICT技術を使って荏原の製品・サービスの品質を向上する業務を行っており、現在はおもに荏原がお客さまから運転・維持管理を受託しているごみ焼却施設の運転管理を高度化・省力化しようとしていますね。荏原環境プラントでは、AIベンチャーと共同開発という形で進めつつ、自社で出来る部分については自社で技術開発を進めています。一例として、AIがごみの種類を自動で識別し、これまで運転員の経験や判断に依存していたクレーンの操作を自動化するシステムを開発したほか、ごみ焼却施設では、ごみを溜めるピットに人が転落するリスクに対して、AIがカメラ画像・映像から転落の予兆や発生を自動で検知するシステムを開発しました。
河島:キャリア採用で荏原で働くことを選んだのは、データ活用を広く推進するチームがあるというのが大きな理由でした。AIやデータと関わり始めたのは、前職のメーカに勤めていたときです。スマートファクトリーのプロジェクトが立ち上がり、工場内に蓄積されたデータを活用する取り組みがあり、私もそのメンバーになりました。データサイエンスは初心者でしたが、大学まで化学系のシミュレーションをしていたこともあり、データの取り扱いなどへの心理的ハードルは小さかったです。
そこからデータを使って品質検査や異常検知の仕組みを作ったところ、予想以上にやりがいがありのめり込みました。次第にもっとデータを使った意思決定を促進する仕事がしたいと考えていたところ、荏原にその専門チームがあると知って転職しました。
大曽根:私は新卒採用で荏原がデータサイエンティストを募集していたのを見て応募しました。もともと大学院で武道の研究をしており、AIの画像処理技術を使って、相手の身体の状態から次の動きを予測することに取り組んでいました。それを採用面接で話すと、対応した荏原の社員、今の上司なのですが「その技術は荏原で生きる」と言われ、入社を決めました。スポーツ系から製造業なので少し勇気がいりましたが、その言葉で決心がついたんです。
町田:大曽根さんの所属する部署は、大学時代にデータサイエンスに携わっていた方は多いですか?
大曽根:そんなことはありません。別の仕事をしながら、趣味や個人的な活動でデータサイエンスを学んでいた人もいます。一方、私の代から新卒採用でデータサイエンティスト枠を設けているので、学生の頃から触れている人もいますね。いろいろなキャリアの方が一緒に働いています。
町田:私は2017年入社ですが、そのときデータサイエンティストの枠はなく、自分自身もプラントエンジニアリングの分野で設備の設計をしたいと思っていました。しかし入社した年に、今所属しているAI関連の部署が立ち上がり配属となりました。予想外でしたが、私も河島さんと同じで、AIによる画像認識やデータ分析を始めるとすぐ楽しくなりました。今ほどAIの情報も世に出ていなかったので、自分で学んだり、共同開発パートナーのAI企業にも協力していただきながら、知識やスキルを高めていきました。
<br><br><br>町田:私の場合は、開発したシステムをごみ焼却施設の運転管理に従事している荏原社員が使うことになるのですが、一方的に私たち開発側が作るのではなく、現場の方が納得する、つまり本当に使いやすいシステムだと感じたり、現場の課題を解決するものだと理解していただいた上で実装するように意識しています。
町田 隼也 荏原環境プラント(株) 共通基盤本部 開発部 新技術開発課
労働人口が減る中で今のインフラを回すには、AIなどで自動化・効率化することは避けられません。とはいえ、現場の方にはそれぞれの仕事で培ってきた経験や思いがあります。それらを自動化するというと、一見、現場の人にとっては自分の仕事が減る感覚になるかもしれません。
あくまで現場の業務負荷低減や生産性向上に寄与するシステムを作っていること、そしてそれを安心してみなさんに使ってもらえること、これらを納得していただいた上で進めていくのが重要ですね。
大曽根:今の話に近いのですが、私たちもお客さまの現場に行ったとき、データがすでに取れていて、こういう機能が作れると見通しがついても、改めて「本当にお客さまがそれを必要としているのか」を考えるようにしています。仮に新しい機能を作ったとき、どんな結果が出て、どれだけビジネスに貢献できるかまで具体的に詰めて、その上でお客さまと意識を擦り合わせていくのが理想です。
このために、仮定の話だけをするのではなく、いったん小さな規模・コストのシステムを作り、その実績をもとに必要かどうかお客さまと相談することもあります。
河島:今の話は本当に重要だと思います。というのも「データは取れているので何かできない?」「AIを使って何かできない?」と相談されることがありますが、これは正しい順番ではなく、まず明確にしたいのは、今どんな課題があり、それをどう解決したいかという「目的」です。その目的があった上で、解決する手段として初めてAIやデータが出てきます。
AIへの期待値が高まっている最近ですが、この技術があれば何でもできるわけではありません。課題が決まっていない状態で大量のデータがあっても、どこから見ればいいのか逆に難しくなってしまいますし、課題から入らないと、大量のデータはあっても解決に必要な数値がない、ということもあります。
大曽根:そういう意味では、AIやデータありきで話が始まるのではなく、まずは現場の皆さんが直面している困りごとを挙げていただき、そこから私たちがAIで何ができるかを考えるのが理想的ではないでしょうか。
河島:そうですね。その相談先として私たちのチームがあればいいと思うので、まずは「こんな課題がある」というところから気軽に声をかけていただきたいですね。メールでも構いません。その上で、現場の方と一緒に解決していきたいと思います。私たちはデータこそ詳しくても、業務の深い知識や課題は、もちろん現場の方が詳しいので。
大曽根:一緒に進めることで、現場の方もデータサイエンスの知識が蓄積されて、お互いのメリットにもなると思います。
<br><br><br>大曽根:私の領域で言えば、装置を熟知されている方がAIやデータの知識も身につければ、相当な強みになると思っています。先ほど河島さんが話したように、世の中のAIに対する期待値が高すぎることもある中で、現場のリアルもAIも知っている方がいると、お客さまに対してより現実的な提案ができるのではないでしょうか。現実的なシステムこそ効果が出やすいので、それが浸透すれば荏原の強みになるはずです。
大曽根 義将 精密・電子カンパニー 装置事業部 データサイエンス課
町田:お客さまや社会の課題に対して、AIを「どう使うか」という点から考えられるのが荏原の面白さだと思います。たとえばAI開発に特化した会社の場合、お客さまに依頼されたAIのモデルやシステムを作るのが主になるかもしれませんが、私たちはモデルを作るだけでなく、その上の概念で、解決すべき課題に対してAIをどう使うかを考えるところから取り組めます。
特に私はごみ焼却施設の高度化に取り組んでいるので、脱炭素や環境問題といった社会課題に対してAIの実装を考えています。大きなことに取り組める醍醐味はあると思いますね。
河島:荏原の良さは、2人の話からもわかるように、AIやデータを通じてさまざまな領域と関われることです。半導体や環境のほか、もちろんポンプなどもありますし、新規事業も多いですよね。データサイエンティストは知的好奇心の塊で、多種多様なデータを使って分析するのが好きなので、この会社の領域の広さは魅力だと思います。
河島:出荷した荏原のポンプや送風機などの製品について、そのトレーサビリティを追えるようにし、また出荷後もデータを取得できるようにしたいですね。すでに取り組みは始まっていますが、稼働データをもとにより良い製品や販売体制を構築できると考えています。
大曽根:私はお客さまにAIやデータサイエンスの仕組み、そしてメリットを分かりやすく伝えられるようになりたいと思います。特にAIはお客さまにとって未知のものであり、仕組みの細かな説明を求められることがあります。このとき、専門的に説明しすぎると理解につながりませんし、逆に簡略化し過ぎると納得や信頼を生みません。分かりやすく、かつ納得感を生む情報を伝える技術を養っていきたいですね。
町田:ごみや廃棄物については、脱炭素や環境問題への取り組みが今後ますます重要になる中、今のやり方でそのまま20年、30年先に行くことはできません。AIだけでなく新しい技術や工夫を取り入れて、これまでにないごみ焼却施設の姿を作りたいですね。現在は自社の設備が対象ですが、良いものを作り、外にも広めていけたら嬉しいですし、それを通じて社会課題の解決に貢献していきたいです。
河島 圭佑(研究・開発)
データストラテジーチーム
町田 隼也(研究・開発)
荏原環境プラント(株)
大曽根 義将(研究・開発)
精密・電子カンパニー
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