荏原グループはグローバル化を進める一環として、全世界の荏原グループ若手社員が2年間、日本を含めた世界各地で研修する独自の人材育成プログラム「Global Career Development Program(以下、GCDP)」を実施しています。2023年にベトナムのEbara Vietnam Pump Company Limited (以下、EVPC)から日本へ来たDo Van Nghiemもその一人。
荏原グループのものづくり拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」で研修を行っています。
受け入れたEMTACの成田・板橋のチームでは、2年間の成長度合いが分かるよう、独自の仕組み(レーダーチャート)を構築。研修に携わる生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課の成田貴行、板橋洋輔、Nghiemの3名に鋳物への想いを聞きました。
<br>Nghiem:私がベトナムのEVPCで行っている業務は、できあがった鋳物(※高温で溶かした金属を型に流し込み、冷やして固めた製品)の品質確認や、欠陥・キズなどのチェック、サイズ計測といった「検査」です。その技術を高めたいと思い日本に来ました。そして、成田さんや板橋さんのチームに配属され、研修を行っています。
成田:私たちの課では、各事業部に必要な開発試作品の迅速試作や、拠点と連携して現場の課題解決を支援する取り組みを行っています。課内にはいくつかのチームがあり、Nghiemさんと板橋さんがいるのは「鋳造チーム」です。鋳造とは、鋳物を作る際の「金属を溶かして型に流し込み、固める加工法」のこと。板橋さんは、できあがった鋳物の「3D計測」に携わっています。
Do Van Nghiem Ebara Vietnam Pump Company Limited
板橋:鋳造は多くの工程から成り立っており、それぞれの工程での小さな違いが最終的な製品に大きな影響を与えます。例えば同じ型を使っても、その時々のわずかな条件や環境の変化により、生まれてくるもの※に差が生じます。そこで鋳物の寸法がどうなっているのか、また加工後の形状と設計形状との間に誤差がないかを計測するのですが、これまでは専門の方が“人の手”で計測してきました。3D計測はそれらを特殊な機械で行うことで、検査結果が作業者の力量に依らないようにし、かつ検査時間を大幅に短縮するものです。
成田:EMTACでは、各事業部が求める試作品を3日でお手元に届けることを目標にしています。計測時間の短縮は、試作品をすばやく作るためにも必要な技術ですね。
板橋:ベトナムのEVPCにも3D計測の設備があるので、Nghiemさんには3D計測の仕方や、それ以外も含めた鋳物の検査・評価方法の全体を学んでもらい、現地の人に伝えて欲しいと思っています。
<br>成田:これまで日本の荏原社員が海外のグループ会社で研修する形はありましたが、2022年から、世界各国の荏原社員も日本や他の国へ行ける、双方向の育成プログラムとしてGCDPがスタートしました。研修に行きたい若手はどんどん送り出したいですし、私たちも研修生を受け入れることで、世界中に仲間が増えていきます。志を同じにする人が各拠点に生まれることは大きな意味がありますね。
成田 貴行 生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課
特に鋳物は生まれ品質※に影響する要因、管理すべき項目が多いからこそ、悩みや課題を抱えている拠点は世界中にあるでしょう。先ほど話した通り、同じ型を使い、同じ作業方法で金属を流し込んでも、できあがりにはわずかなバラつきが発生します。しかも一点モノや少量多品種の製造が多い拠点では、毎回の細かな調整が必要です。その中で、Nghiemさんのような仲間が増え、課題や解決策を世界中で共有できるのは重要だと思います。
加えて、各拠点で3D計測以外にも3Dデータの活用を広めて、欠陥が起きないような設計や作り方を事前に検討することにも役立てたいですね。作る工程、作った後の計測に加え、作る前のシミュレーションや解析にも活かせるのではないでしょうか。そのためにも仲間を増やして、世界の各拠点で3Dデータが有効活用されることを目指しています。
荏原グループの鋳造では、仕様に合った品質と区別して造型・型被せ・溶解・鋳込みまでの工程で決まる品質のことを「生まれ品質」と言っています。この「生まれ品質」を高めて、後の工程(補修など)をいかに省略できるかを意識しながら作業に取り組んでいます。
成田:研修期間にNghiemさんの成長度合いを可視化できるよう、レーダーチャートを作成しました。レーダーチャートとは、多角形で複数の項目のレベルや数値を表すものです。よくチームの戦力分析などに使われる、クモの巣のようなグラフですね。例えば検査に必要な技術のレベルを5段階に分けたとして、どこまでできればレベル2なのか、レベル3では何が必要かを板橋さんと考えました。
Nghiemさんには、3D計測を含めて、検査員としての知識・技術を2年間で身につけて欲しいと思っています。希望は、鋳物の検査を行い、欠陥を見つけるだけでなく、欠陥の状況からその原因や改善すべき工程を予測できるまでになることです。欲張りすぎかもしれませんが、レーダーチャートもそこまで見据えたものを作成しました。来日した時点のNghiemさんの技術レベルを測定し、2年後にどのレベルまで伸ばすか、そのために必要なカリキュラムを考えていきました。
ただし、私は鋳造のキャリアは長いのですが、検査や計測の専門ではありません。板橋さんも3D計測は行っていますが、人の手で行う検査は知らないことがたくさんあります。その中で、検査員としてのスキルレベルをレーダーチャートにするのは苦労しました。板橋さんには本当に頑張ってもらいましたね。
板橋:手で行う検査・計測の部分については、現役で検査を行っている社員の方に話を聞きました。カリキュラムについても、私たちのチームだけでは教えられないことも出てきます。そこで、Nghiemさんには2ヵ月ほど荏原の富津工場で検査技術を学んでもらうこともしました。
Nghiem:富津では、皆さんからさまざまなことを熱心に教えていただいて、勉強になりました。緊張もしましたが、日本の検査工程や、できあがった後の性能試験を間近で見られたのは貴重な経験です。
成田:このレーダーチャートは、今後GCDPで他の研修生を受け入れるとき、あるいは新入社員の技術指導にも応用できると思います。
<br>板橋:自分自身が深く理解していないとNghiemさんに教えられないと思い、文献などを見て必死に勉強しました。もう一つ、少しでも鋳物への理解を深めてもらうため、実際に鋳造の工程を体験するなど、体を動かして学んでもらいました。
工程を深く理解すると、検査時に欠陥を見つけた際、どの工程のどの作業に原因があるのか、どこを改善すれば良いのか予測する力が培われます。そのためにも、こうしたカリキュラムを用意しました。
Nghiem:鋳物を作る工程がよく分かりましたし、さまざまな作業があることを知れました。また、欠陥の種類を幅広く理解できたのも大きかったです。今はそれらを一つ一つ頭に入れ、検査に役立てようと考えています。
板橋 洋輔 生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 鋳造チーム
板橋:人の手で行う検査の知識や、鋳造の工程など、自分に足りない知識を補えたことです。今回、Nghiemさんに教えたり、そのためのレーダーチャートを作ったりする中で、自分自身の勉強にもなったと感じています。
成田:もともとこの研修では、Nghiemさんが成長することはもちろん、板橋さんも同時に育って欲しいと考えていました。それが形になっていると感じます。
今はデータやテクノロジーを使い、シミュレーションなどを行いながら製品を作る流れが強まっています。3D計測もその流れの一つであり、板橋さんも3D計測やそのデータに関する知識を蓄えてきました。しかし私が思うのは、データやテクノロジーがないと仕事ができない人には育てたくないということです。デジタル側の知識や技術だけがついて、実際のものづくり現場を知らない人材にはしたくありません。それは、ものづくり現場との乖離にもつながります。
あくまで、現場の作り方や原理原則を知った上でテクノロジーを学んで欲しいと思いますし、両方を身につけて欲しいと考えてきました。GCDPによって、板橋さんが両方を学ぶ機会になった点も大きいと感じます。
Nghiem:日本にいる間に、3D計測や検査について勉強し、ベトナムの工場で広めていきたいです。ベトナムに帰ってからも、分からないことがあれば皆さんに聞きたいと思います。
成田:そうですね。Nghiemさんが技術を持ち帰ることで、ベトナムの検査品質向上にもつながると思います。個人的にも、GCDPなどで人づくりに関わりながら、荏原グループ全体の底上げに貢献したいですね。今は、当たり前のことを当たり前にやるだけでは足りない時代です。環境への負荷を下げながら良い製品を作るなど、さらなる努力が求められます。こうしたテーマは世界共通ですから、各拠点の人たちと知恵を合わせて取り組みたいですね。
板橋:Nghiemさんには、こちらで学んだことをベトナムで活かして欲しいですし、私も常に連携が取れるようにします。自分の目標としては、鋳物の技術を学び続けたいと思います。特に今回見聞きしたような、現場の知識を身につけたいですね。鋳物は本当に難しく、わずかな条件で結果が変わる世界です。だからこそ現場を見て知識を深めたいですね。
成田:鋳物は確かに難しい世界です。だからこそ「難しいから」と諦めず、どうすればもっと良くなるのか、板橋さんを含め、若い人たちが頑張ってもらえるとうれしいですね。私もそういうチームを作っていけたらと思います。
Ebara Vietnam Pump Company Limited(EVPC)
荏原ベトナムポンプ(EVPC)は1995年、荏原製作所とベトナムのポンプメーカとの合弁で、ベトナム ハイズン省に、荏原ハイズン(EHD)として設立しました。2011年に荏原製作所の完全子会社となり、EVPCと社名を改め、2016年には新工場を完成させました。
工場は素形材(鋳物、製缶)の製造機能を有し、素形材製造から加工、組立、試験工程までを一貫生産できる荏原グループ唯一のポンプ工場です。
特に鋳物は設計形状を正確に再現することが難しく、性能を左右するインペラ鋳物においては、製造工程中の変形検証や形状検査に3Dスキャン技術を活用しています。また、鋳造欠陥の原因究明、再発防止を推進すると共に、鋳造方案の検討や解析ソフトを駆使して欠陥のない鋳物づくりを目指しています。
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成田 貴行(生産技術)
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