荏原のものづくりをグループ横串で支援する拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」では、さまざまな新技術の開発・研究を進めています。その中には、海外研修生の姿も見られます。「溶射」技術の開発には、インドネシアからの研修生、Krisna Hutomo Adityaが参加。海外研修生を「教える相手」ではなく、「一緒に開発を進めるメンバー」と位置付けて、チーム一体で新技術に向き合っています。
開発チームのメンバーである、生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 新技術開発課の瀧川 俊介、荒川 昭信、Adityaの3名にその活動を聞きました。
<br>瀧川:私たちが現在進めているのが、「マイクロ溶射」の技術開発です。溶射とは、高温で溶かした金属などの材料を、製品や加工品の表面に吹き付けてコーティングする工程です。完全に溶かした材料で溶射することもあれば、半溶融状態のものもあります。吹き付けられた材料は冷えて固まり、表面を覆う皮膜となります。
荒川:溶射を行う理由はいくつかあります。製品の耐久性を上げるために、より硬い材質の材料で表面を覆いたい場合や、腐食しにくい材料で表面を覆うなど。荏原の半導体装置やポンプなど、さまざまな製品に使われている技術です。
瀧川 俊介 生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 新技術開発課
瀧川:私たちの開発しているマイクロ溶射は、装置がコンパクトで、ハンドリングしやすいのが特徴で、従来装置に比較して「小さい」ことを表す言葉として「マイクロ」を使っています。
荒川:開発メンバーの役割としては、Adityaさんがマイクロ溶射装置の細かな設計や調整を行い、私はその装置で溶射して作られた表面皮膜を分析します。そこから、より性能を上げる条件を考えて、Adityaさんにフィードバックしていますね。これらの開発を統括するのが瀧川さんです。
瀧川:そうですね。われわれは海外研修生を「お客さま」と捉えず、一緒に開発を進めるメンバーと位置付けています。Adityaさんは、荏原の人材育成プログラム「Global Career Development Program(以下、GCDP)※」 でここにやってきました。GCDPの前身となった育成プログラムは、日本の荏原本社社員が海外研修に行くものでしたが、2022年にGCDPとなってからは、全世界の荏原グループ社員が、日本を含めた世界各地に研修へ行けるようになりました。
Adityaさんは2023年春に来日し、2年間ここに所属します。私たちにとってもGCDPで海外研修生を受け入れるのは初めてですが、決して一方的に技術を教えて継承するのではなく、Adityaさん自ら手を動かして、自身で学ぶことを求めています。荒川さんとAdityaさんが仕事で組むことは多いですが、二人は「教える・教えられる関係」ではありません。荒川さんはメンターとしてAdityaさんが日本で仕事をする際のサポートはしているものの、仕事ではフラットな“開発メンバー同士”です。
荒川:実際に、Adityaさんは自分で考えて計画を立てたり、意見を出して動いたりしてくれます。私が教えている感覚はないですね。
Aditya:私としては、日本の荏原で働くのが本当に楽しく、充実しています。溶射の技術を学べるのはもちろん、日本では最新の設備に触れられます。素晴らしい工場の自動化システムに驚いたことも少なくありません。
何より、日本に来てから、さまざまな国の荏原のエンジニアと情報交換しています。荏原は世界各国にグループ会社があり、中国やベトナムなどから、私と同じくGCDPで日本に来ている人もいます。各国の設備やエンジニアリングはどうなのか、質問攻めでした(笑)
瀧川:私たちが、研修生を「一緒に開発を進めるメンバー」と捉えるようになったのは、こうしたAdityaさんの積極性があったからです。最初は、研修生に対して細かく教えた方が良いのかと考えていましたが、Adityaさんが自分から動くので、次第に考えが変わりました。むしろ私たちがAdityaさんの姿に学んだのかもしれません。
Aditya:学生の頃から「いつか日本で働きたい」という夢がありました。自動車産業をはじめ、日本の機械工学は本当に素晴らしいものです。一度、仕事をしてみたいと思っていました。
2018年に、インドネシアにある荏原のEbara Turbomachinery Services Indonesia(以下、ETSI)に入社し、エンジニアとして働いてきました。日本で学んだマイクロ溶射技術をインドネシアに持ち帰り、現地で活用できればと思っています。
瀧川:ETSIでも、マイクロ溶射の技術に興味を抱いていました。ETSIは荏原製品の修理がメインであり、マイクロ溶射の技術が活用できれば、それらの業務に有効だと考えていたのです。Adityaさん個人とETSI、お互いの希望が合致し、私たちのチームにAdityaさんが配属されました。
Krisna Hutomo Aditya PT. Ebara Turbomachinery Services Indonesia
荒川:大きな不安はありませんでした。技術を教えるのはまだできませんが、一緒に仕事をするのは良い経験だと感じました。とはいえ、心配だったのは「言語」です。来日したばかりの頃、Adityaさんはほとんど日本語が喋れない状態でしたので。
Aditya:私自身もそれが一番大変でした。日本に来てからは、オンラインなどで日本語を勉強しています。まだまだ上手ではありませんが、少しずつコミュニケーションを取れるようになってきました。
荒川 昭信 生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 新技術開発課
瀧川:今はすっかり日本語を話せるようになって、すごいなと思います。最初は私がほとんど英語で通訳していました。つたない英語なので恥ずかしさもありましたが、話さなければ前に進みません。一方、荒川さんは若者らしく、スマホの翻訳アプリを駆使していましたね(笑)
とはいえ、業務に入り、ディスカッションするような場面になると、翻訳アプリでは熱い議論が冷めてしまいます。そこは恥ずかしがらず、英語を話してもらうようにしています。荒川さんも、必死に英語で話すようになりましたし、言葉の壁と言いながら、意外と超えられると思いました。
荒川:会話の内容は溶射に関することなので、私の英語が不十分でも、Adityaさんが内容を察してくれて通じ合えています。
Aditya:溶射の技術や日本語を学べたことはもちろん、日本の文化を体験できたのも貴重でした。印象的なのは時間感覚です。仮に10時開始の会議があるとすれば、インドネシアは10時5分頃にスタートするのが一般的ですが、日本は10時きっちりにスタートします。それが当たり前ですよね。こうした文化は仕事を進める上で大切だと思いました。
荒川:私はAdityaさんと働く中で、自分に足りない「現場の知識」を教えてもらいました。新卒ですぐEMTACに来たので、現場での業務経験がありません。Adityaさんは長く現場に携わってきたので、その視点で「実はこの作業にもマイクロ溶射が使える」「現場でこういう使い方ができるとうれしい」といった意見を聞くことができました。
瀧川:外国の文化を近くで体感したことも大きかったと思います。Adityaさんはイスラム教徒ですから、ラマダンという1カ月ほどの断食期間があります。断食は、Adityaさんとその家族、小さな娘さんも行います。こうした文化を聞いたことはありましたが、間近で見ることに意味を感じました。グローバルに事業を展開する荏原の一員として、重要な経験ではないでしょうか。
Aditya:日本で学んだ溶射の技術をインドネシアで活かしたいですし、何より日本でできた「新しい仲間」とともに、いろいろな取り組みができればと思います。インドネシアで何か課題が見つかったら、瀧川さんや荒川さん、今回つながりができた中国やベトナムのエンジニアに相談できます。ETSIの部長も日本人なので、覚えた日本語で積極的にコミュニケーションを取りたいと思います。
瀧川:お互い困ったときには気軽に声を掛けましょう。インドネシアと日本の架け橋になってもらえればうれしいです。研修期間が終わっても、ずっと関係を持ち続けたいですね。
荒川:今やっていることをインドネシアで活かしてもらえたらうれしいですし、私も溶射の開発を進めるほか、溶接などの他分野でも知見や経験を蓄えたいと思います。
瀧川:実は私も、入社以来、海外で自分を試したい気持ちがありました。今回、Adityaさんが人として成長する姿を見て、その気持ちをさらに強くしましたね。海外で新たに知識をつけるだけでなく、その国の文化に触れて成長する。本当に素晴らしいことだと改めて感じました。これからぜひ、私も海外というフィールドにチャレンジしたいと思っています。
Global Career Development Program(GCDP) 全世界の荏原グループ若手社員が2年間、日本を含めた世界各地で研修する独自の人材育成プログラム
PT. Ebara Turbomachinery Services Indonesia(ETSI)
PT.Ebara Turbomachinery Services Indonesiaは、2015年にインドネシアに設立した荏原グループ・エネルギーカンパニー傘下の現地法人です。2022年にエリオットと荏原製作所のJV会社として、コンプレッサ、タービン、ポンプを含めた回転機械のアフタービジネスに対応する体制にリニューアルしました。現在ジャカルタ地区にオフィス、カラワン地区にワークショップがあり、インドネシアにおける総合回転機械メーカとしてソリューションプロバイダーになることを理念として活動しています。ワークショップは、2023年に新たに建設され、ポンプだけでなくコンプレッサ・タービンの整備も可能なハイブリッド設備に変わりました。インドネシアを中心にポテンシャルの高い東南アジア諸国において、荏原グループの総合力で取り組み、顧客満足度・荏原グループのブランド力の更なる向上を目指し日々活動しています。
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