藤井 宗俊* Munetoshi FUJII
江藤 文宣* Fuminori ETO
瀬川 直人** Naoto SEGAWA
山田 浩一*** Koichi YAMADA
*
風水力機械カンパニー 国内事業統括 社会システム計画・開発統括部 技術計画室
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同 同 プラントシステム事業統括部 工事調達室
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同 同 東京支社 社会システム建設室
糠田排水機場は,埼玉県行田市,鴻巣市をまたぐ武蔵水路の末端に位置する。その老朽化に伴い,第1機場と第2機場を統合,排水能力の増強と建屋・土木の耐震補強を実施,2016年3月に正式運用が開始された。本工事は,当社のポンプ関連設備に関わる技術を基に,排水機能を維持しながら機械・電気設備の順次更新,渦対策,土木耐震補強等を実施し,4年半という長期にわたる工事を順調に完工した。また,ポンプ吸水槽及び上流側遊水地を一体とした流れに対し,流れ解析と実施試験との比較検証を行い,流れ解析による渦対策形状の検討が,十分実用的なレベルにあることを確認できた。
The Nukata Drainage Pump Station is located at the end of the Musashi Canal which flows through Gyoda City and Konosu City in Saitama Prefecture. To reconstruct the deteriorated Pump Station, Pump Station No. 1 and Pump Station No. 2 were integrated, the drainage capacity was increased, and construction and civil engineering work for seismic retrofitting was done; the operation of the reconstructed pump station was officially commenced in March 2016. Based on Ebara’s technologies for pump-related facilities, we successfully completed the four-and-half-year work, including the reconstruction of mechanical and electrical facilities, the implementation of countermeasures against vortices, and civil engineering work for seismic retrofitting, while maintaining the pump station’s drainage capacity. For flow patterns in the pump sump including the upstream balancing reservoir, the results of computational fluid dynamics (CFD) analysis and the results of the conducted test were compared and verified; vortex suppression devices studied by CFD analysis are found to be efficient enough for practical use.
Keywords: Reconstruction, Drainage pump station, Vertical shaft mixed flow pump, Changeover, Seismic retrofitting, Pump sump, Balancing reservoir, CFD analysis, Countermeasures against vortices, Field test
埼玉県行田市,鴻巣市をまたぐ武蔵水路は,利根川と荒川を結ぶ全長約14.5 kmの水路で,都市用水及び浄化用水として利根川の水を首都圏に運ぶ役割を担っている(図1)。背景には,1950年代中期から1960年代初頭にかけて,首都圏の経済成長に伴う人口の増加や生活の多様化による水道用水の需要の増加に加え,渇水による深刻な水不足となったことが挙げられ,関連施設は,既存の農業用水の安定化を軸に立案された利根導水路計画の一環として建設された。
近年,更なる都市化の進展による保水機能の低下や,局所的な集中豪雨等によって,急激な河川の増水や市街地・農地の冠水が発生する危険が増加している。そのため,武蔵水路施設の一つである糠田排水機場は,武蔵水路から荒川へ強制排水することで,水路周辺地区を浸水被害から守る重要な役割を担っている。
武蔵水路施設は建設から約50年が経過し,主に以下3点を目的に武蔵水路改築事業が実施された 1)。
①地盤沈下や老朽化によって低下した通水機能の回復
②浸水被害軽減のため,内水排除機能の確保・強化
③継続した荒川水系の水質の改善
糠田排水機場は,老朽化に伴い,第1機場と第2機場を統合し,排水能力を新たに50 m3/s(既設40 m3/s)に増強し,併せて建屋及び土木基礎の耐震補強を実施した。2016年3月には全面更新が完了し,正式運用が開始された。
当社は,第2機場のポンプ設備に関わる機械・電気設備工事・土木工事を受注し,2011年7月から2016年 3月にわたり,一定の排水能力を維持しながら,順次新規製作のポンプ設備に取り替える更新工事を行った。
図1 武蔵水路(出典:(独)水資源機構 武蔵水路改築建設所HP)
表に更新機場の主な設備仕様を,図2に機場配置平面図,図3に断面図,図4,5に機場外観を示す。
機器名 | 更新機場 | 既設機場(第2機場) | 改修ポイント |
主ポンプ設備 | 口径1800 mm立軸斜流ポンプ 7.5 m3/s×7.7 m,2台 口径1800 mm立軸斜流ポンプ 7.5 m3/s×8.5 m,2台 口径2000 mm立軸斜流ポンプ 10 m3/s×7.8 m,2台 総排水量:50 m3/s |
口径1500 mm横軸斜流ポンプ 5 m3/s,3台 口径1800 mm横軸斜流ポンプ 7.5 m3/s,2台 口径2100 mm横軸斜流ポンプ 10 m3/s,1台 総排水量:40 m3/s |
・立軸化 ・増量 ・吐出し管(一部),フラップ弁 :既設継続使用 |
主原動機設備 | 4サイクルディーゼル機関 780 kW,2台 860 kW,2台 1050 kW,2台 |
4サイクルディーゼル機関 550 PS(410 kW),3台 820 PS(612 kW),2台 1100 PS(821 kW),1台 |
|
動力伝達設備 | 直交軸傘歯車減速機 (減速機搭載型吐出し曲管) |
遊星歯車減速機 | ・立軸化 (減速機搭載型吐出し曲管) |
補機系統設備 | 20 kL燃料貯油槽×3基 (既設整備・継続使用) 燃料小出槽 1500 L,2基 1800 L,1基 300 L,1基 300 L返油タンク×1基 別置ラジエータ 860 kW用,4基 1050 kW用,2基 口径32 mm燃料移送ポンプ×2台 口径40 mm返油ポンプ×1台 空気圧縮機×2台 燃焼排気用換気ファン×1台 |
20 kL燃料貯油槽×3基 燃料小出槽 1000 L,3基 490 L,1基 330 L返油タンク×1基 8 m3高架水槽×1基 口径100 mm冷却水ポンプ×4台 口径65 mm給水ポンプ×2台 口径65 mm原水取水ポンプ×1台 口径80 mm井戸取水ポンプ×1台 口径125 mm真空ポンプ×2台 口径40 mm燃料移送ポンプ×2台 口径25 mm返油ポンプ×1台 空気圧縮機×3台(非常用1台) |
・冷却系統変更 (別置ラジエータ方式) |
除塵設備 | 除塵機 背面降下前面掻上式,計6基 水平コンベヤ 20°トラフ形,1基 傾斜コンベヤ ヒレ付,1基 |
除塵機 トラッシュカー型,計2基 |
・除塵機設置のため土木躯体の延長 (水路内底盤及び隔壁の構築) ・水路内仮桟橋,吸水槽部仮締切の設置 |
電源設備 | 商用 高圧受電 三相3線式 6.6 kV 50 Hz 自家発電機 300 kVA,1基 150 kVA,1基(既設継続使用) |
商用 高圧受電 三相3線式 6.6 kV 50 Hz 自家発電機 150 kVA,1基 |
・発電機室・電気室の新設 |
操作制御設備 | 機側操作盤からの1人操作方式 中央監視操作:有り 遠隔監視操作:有り |
機側操作盤からの1人操作方式 中央監視操作:有り 遠隔監視操作:無し |
・遠隔監視操作装置の設置 |
土木・建屋 その他設備 |
既設改修・継続使用 | − | ・更新機器基礎の再構築 ・機械・電気ピットの再構築 ・土木・建屋の耐震補強 ・クレーン:既設整備・継続使用 |
図2 (a)機場配置平面図(既設)
図2 (b)機場配置平面図(更新)
図3 機場断面図(更新)
図4 機場外観(機場外)
図5 機場外観(機場内)
本工事の主な特徴を,以下に示す。
(1)
(2)
(3)
(4)
図6 施工範囲(工期ごと)
図7 水路の仮締切・仮桟橋及び作業状況
図8 機械基礎の再構築
図9 土木耐震補強(吸水槽部)
本工事の工事難易度は「難工事」(Ⅵ段階中Ⅴ評価)に分類され,長期にわたる工事期間の中で,一定の排水能力を維持しながら,一つ一つの工程を確実に進めていくことが必須であると同時に,大きな課題であった。
工事関係者によって,常に工事全体を見通し,特に以下の点に注力し,社内外での定期プロジェクト会議を開催する等,綿密な施工 PDCA サイクルを重ねていくことで,施工品質・安全性の確保・向上,工程の遵守を,通期にわたり具現化し,順調に完工することができた。
(1)
(2)
(3)
(4)
図10 据付け・吊りジグによる主機搬入・据付け状況
本工事では,当社がこれまで培ってきたポンプ関連設備に関わる技術を基に,現場特性に配慮し,設備の信頼性,維持管理性,長寿命化の向上のため,様々な工夫を実施した。その一例を,以下に示す。
(1)ポンプの高効率化による燃料費低減
(2)流れ解析を活用したポンプ吸込渦対策
(3)維持管理性,信頼性向上の工夫
内水位(武蔵水路)の運用水位幅が小さい。 →流入量に応じ,回転速度・吐出し弁開度による柔軟な流量調整制御ロジックを構築
冷却系統の信頼性向上が望まれる。 →別置ラジエータファンの万一の故障に備え,自動バックアップ切替え機能を付加
機場内スペースが限られる。 →機場内の動線,メンテスペースを最大限確保のため,排気ダクト・サポートのレイアウトの工夫,空きスペースの開口蓋の工夫(機器仮置用荷重の確保,フラット化)など
排水量の増量を伴うポンプ更新工事では,吸込水槽に生ずる渦対策(図11)が最大のテーマとなり,流れ解析を用いたポンプ吸込渦対策を実施した。この概要は前報 2)で報告のとおりである。本報では,現地試運転の際に実施した流れ解析の検証結果について紹介する。
図11 渦対策形状
糠田排水機場ポンプ吸水槽は上流側遊水池からの流れが直角に流入する配置となっている。さらに今回の更新で,一部のポンプ(3,4号機)の排水量が増量されること,ポンプ吸水槽間の隔壁が延長されることといった要因によってポンプ吸水槽流れに偏流が発生しやすく,空気吸込渦や水中渦といったポンプ運転に支障を来す有害な渦が発生する危険性が増大することが予想された。
そこで前報 2)で報告したとおり,上流側に位置する遊水池まで含めたポンプ吸水槽の流れ解析を行い,さらに模型水槽試験を行うことで渦対策形状の検討を行った。流れ解析によって最適化した渦対策形状を図11に示す。ここでは糠田排水機場竣工に先立って実施された総合試運転において,実機ポンプ運転で流れ解析によって考案した渦対策形状の効果を実証するとともに,流れ解析の妥当性について検証した。
試験は遊水池からの偏り流れが最も大きくなると予想された4号機(口径1800 mm,定格吐出し量7.5 m3/s)単独運転を対象に行った。図12に試験時の遊水池流入・ 流出状況を示す。ポンプ吐出し量は工場性能試験で得られたポンプ性能曲線と試験時の水位条件,配管・弁類の損失から算出した。なおポンプ吐出し量は定格よりも過大となり,ポンプ吸水槽に渦が発生しやすいと考えられる条件での試験となった。
(1)
(2)
図12 実機試験条件
図13に4号機単独運転時のポンプ吸水槽の流速(吸水槽流れ方向成分)の時間変化を示す。上流からポンプに向かって左水路の流速が右水路よりも大きい傾向が確認され,図13に示した時間範囲での平均値は左水路1.89 m/s,右水路1.47 m/sであった。この平均流速を代表流速とし,左右水路に水位差は生じないと仮定して流量に換算すると,流量割合は左水路が56%,右水路が44%である。
工業用内視鏡で観察したポンプ運転中のポンプ吸込管近傍水面の流れ状況を図14に示す。試運転中水面に旋回流れは観察されず,空気吸込渦が発生しないことを確認した。
図13 4号機ポンプ吸水槽流速
図14 ポンプ吸込管近傍水面流れ状況
前報 2)では遊水池とポンプ吸水槽を分け,遊水池流れ解析結果を流入条件としたポンプ吸水槽詳細渦流れ解析を行った。このようにすることで当時限られた検討時間内で様々な渦対策形状の効果を検証することができたが,近年の計算機性能の向上によって大規模解析領域の流れ解析も現在では十分可能になってきている。そこで,ここでは遊水池とポンプ吸水槽を一体とした流れ解析を行い,実機計測結果と比較し,解析精度の検証を行った。
流れ解析は水面の変動を無視したRANS(レイノルズ平均モデル)定常解析とした。図15に遊水池速度ベクトル図を,図16にポンプ吸水槽流入状況の拡大図を示す。ポンプ左右水路における流量割合は左水路58%,右水路42%となり,現地試験結果とよく一致した。
図17にポンプ吸水槽の水面速度ベクトル及び渦中心線の分布図を示す。幾つかの渦芯が見られるが,これらは有害な渦ではなく,渦対策が有効であることを示している。水面におけるフローパターンも実機観察結果(図14)とよく一致しており,遊水池とポンプ吸水槽を一体 とした流れ解析によって精度良く実機試験の流れ状況を再現することができた。
以上から,流れ解析による渦対策形状の検討は実機試験との比較検証によって十分実用的なレベルにあることが確認できた。
図15 遊水池を含めたポンプ吸水槽流れ解析結果
図16 4号機ポンプ吸水槽への流入状況
図17 吸水槽流れ解析結果
本工事は,工事難易度が「難工事」に分類され,特に,一定の排水機能を維持しながらの順次更新に加え,渦対策,水路の仮締切・仮桟橋の構築,土木耐震補強等があり,長期にわたる工程の遵守,施工品質・安全性の確保・向上が課題であった。現場特性を理解した上で,設計上及び施工上の課題と向き合い,工夫を積み重ねていくことで,順調に完工できたことを,関係者一同誇りに感じている。
本工事では,利根導水総合事業所安全協議会長表彰として,平成27年度安全管理優良工事(無災害年度表彰)を頂いた。
結びに,本工事に当たり,(独)水資源機構をはじめ,社内外の多くの方々にご指導・ご協力を頂いた。 関係各位に心から謝意を表する。
1) 生まれ変わる武蔵水路 武蔵水路改築事業,(独)水資源機構利根導水総合事業所,武蔵水路改築建設所(2012).
2) 江藤文宣,趙令家,大和田典彦:排水機場更新工事における流れ解析の適用(糠田排水機場ポンプ設備改修工事におけるポンプ吸水槽渦対策),エバラ時報,No.240,P.22-26(2013-7).
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