川井 康* Yasushi KAWAI
本田 修一郎* Shuichiro HONDA
関野 夕美子** Yumiko SEKINO
*
風水力機械カンパニー カスタムポンプ事業統括 企画管理統括部 製品開発室
**
同 企画管理技術統括 技術開発統括部 流体技術室
米国カリフォルニア州にあるカールスバッドRO方式海水淡水化プラント向けに,大容量かつ超高効率の高圧ポンプを4台納入した。本ポンプの効率はRO方式海水淡水化市場における高圧ポンプとしては世界最高レベルである。超高効率を達成するため,モーフィング技術と流れ解析を組み合わせて従来機種の流路形状を見直し,流路損失の低減を図るとともに,ウェアリングなどの摺動部隙間を狭くすることによって漏れ損失の低減を図った。
We delivered four units of the large-capacity, ultrahigh-efficiency, high-pressure pump to the Seawater RO Carlsbad Desalination Plant located in California State, U.S.A. The pump provides the world’s highest level of efficiency as a high-pressure pump for the market of Seawater RO desalination. To achieve ultrahigh efficiency, we successfully reduced flow passage losses by reviewing the flow passage geometry of the conventional models based on a combination of morphing technology and flow analysis. In addition, we reduced leakage losses by narrowing gaps in the running clearances such as wear rings.
Keywords: Seawater high pressure pump, Desalination plant, Reverse Osmosis, Ultra high efficiency, Axially split multistage pump, Morphing technology, Unsteady flow analysis
米国カリフォルニア州にあるカールスバッドRO※方式海水淡水化プラント(Carlsbad Seawater Desalination Plant)向けに,大容量かつ超高効率の高圧ポンプを4台納入した。その効率はRO方式海水淡水化市場において世界最高レベルである。当社は過去にも同用途の高圧ポンプの納入実績を有するが,その中でも本ポンプは突出した高効率である。図1に本プラント内に設置された納入ポンプを示す。この章では海水淡水化技術の概要,納入先プラントの概要と高効率ポンプが求められる背景について説明し,2章以降で本ポンプの仕様や特徴及び超高効率達成への設計手法を紹介する。
※RO=逆浸透。Reverse Osmosisの略。
図1 RO方式海水淡水化用高圧ポンプ
近年の海水淡水化技術は,蒸発法(Distillation method)とRO膜法(RO membrane method)の二つの方式が主流となっている。蒸発法は海水を加熱するなどして蒸留水を得る方式であり,RO膜法は海水を加圧し,RO膜という特殊な膜に押し当てて淡水をこし出す方式である。世界の淡水化市場で採用されている方式の推移を見ると,以前は蒸発法が多かったが,1995年頃を境にRO膜法が逆転している 2)。
カールスバッド海水淡水化プラントは米国西海岸,カリフォルニア州南端のサンディエゴ市の北30マイル(約48 km)に位置している(図2)。カリフォルニア州は南北に長い州で,南カリフォルニアは観測史上最長となる4年間連続の干ばつに見舞われている。今後も気候変動に伴い,干ばつの期間は更に長期化しかつ頻発すると予測されている地域である。南カリフォルニアは現在,北カリフォルニアからの水供給に依存しており,水供給の安定化を進める観点から,サンディエゴ郡水道局(SDCWA)と民間企業であるPoseidon Water社の官民連携事業としてこの海水淡水化プラントが建設された。
このプラントは西半球最大の海水淡水化プラントで,1日当たり5000万米ガロン(189260 m3)の高品質な飲料水を造水する能力があり,これは40万人に十分な飲料水を供給できる量に匹敵する。プラントで造水された飲料水はまず,直径54インチ(約1350 mm)のパイプラインによって,カールスバッド市,ビスタ市,サンマルコス市を経て,10マイル(約16 km)東方のサンディエゴ郡水道局の供給網接続施設へ送られる。その後,北上し,ツイン・オーク・バレー水処理プラント(Twin Oaks Valley Water Treatment Plant)へ送られ,他の水供給網と合流し,サンディエゴ市を始め,サンディエゴ郡全体へ配水される。
図2 カールスバッド海水淡水化プラントの位置とプロジェクトの全体図<sup>1)</sup>
海水から飲料水になるまでのプロセスについて,本プラントの設備配置図(図3)で説明する。図3において,①で海水を取水し,②③で2段階の前処理を実施,④で前処理された海水を加圧し,RO膜を通し淡水を得る。⑤で後処理をして飲料水が生産され,⑧から配水される。本高圧ポンプは,プロセス④に設置されていて,前処理された海水を加圧している。
蒸発法は熱エネルギーを使用するのに対し,RO膜法は電気エネルギーをポンプで圧力エネルギーに変換し使用する。一般的にRO方式海水淡水化設備ではそのプロセスで必要な全電力のうち,60%前後をこの高圧ポンプ周りで消費すると言われている。電気代を含め造水にかかる費用は,飲料水の供給を受ける住民が水道料金として負担する。そのため水単価は安価の方がよく,エネルギー回収装置の導入によって造水コストを下げる工夫がされ,また最大の電力消費源であるこのポンプにも,極力高い効率が求められる。
図3 カールスバッド海水淡水化プラントとプロセスフロー<sup>1)</sup>
今回納入したポンプの主な仕様を表に示す。
用途 | RO方式海水淡水化用高圧ポンプ |
ポンプ形式 | 上下割り多段ポンプ |
機名 | SP/SPD型 |
特徴 | ・水平二つ割り,両側軸受持ち,センターサポート ・すべり軸受 |
流量 | 12848 USGPM(2918 m3/h) |
全揚程 | 1845 ft(562.4 m) |
モータ定格出力 | 7700 HP(5744.2 kW) |
納入台数 | 4台(3台:常用,1台:予備) |
本ポンプはメンテナンス性に優れていることが特徴である。その理由は二つあり,一つ目はポンプケーシングが上下水平二つ割り構造であることである。ポンプ内部をメンテナンスする際,輪切りポンプの場合はポンプ全体を分解しなくてはならないが,このタイプは上ケーシングを取り外すことでポンプ内部へアクセスでき,また復旧作業も輪切りポンプに比べ容易である。二つ目は軸受にすべり軸受を採用していることである。玉軸受のように定期的に交換する必要はなく,半永久的に使用可能である。
また運転時の安定性の観点では,本ポンプはセンターサポートであるため,フットサポートに比べ,より低振動であることが特徴である。さらにポンプ軸の端にポンプ軸と連動して動く潤滑油ポンプを搭載し,軸受へ潤滑油を供給している。そのため不慮の停電が生じた場合でも,回転体が慣性によってしばらく回転し,停止するまで軸受へ潤滑油を供給し続けるので軸受の損傷を防止することができる。
当社はこれまで同形式のポンプを数多く納入してきた。近年の納入先としては特にオイル&ガス市場向けの比率が高い。オイル&ガス市場では高級仕様のAPI規格が適用されるが,効率要求は高くない場合が多い。RO方式海水淡水化向けの本ポンプは,大容量かつ1-3項で述べたように超高効率が要求されることから,流路形状や構造について新規設計を行った。
当社はRO方式海水淡水化用高圧ポンプとして数年前から実機サイズのポンプを数台試作し,性能機能検証を積み重ねてきていた。今回,同形式ポンプの数多くの納入実績に加え,それら試作機による検証から得られた知見を基に,当社の流路形状設計技術,流れ解析技術を駆使し,ポンプ内の流路全体を新規に設計した。
本ポンプは2段ポンプであり,吸込圧力条件から初段は両吸込羽根車を採用した。羽根車設計には逆解法を用い,子午面形状や翼負荷分布の最適化を行うことで規定流量での効率が最大になるように設計した。
羽根車の効率を向上させるには入口流れを一様化することが有効であるので,吸込流路形状や,初段羽根車から後段羽根車へつながる長段間流路形状を工夫した。吸込流路は,当時新しい技術であったモーフィング技術を用いた形状変更と,流れ解析を組み合わせて最適化した。長段間流路は流れ解析を繰り返しながら形状修正を実施し,流路損失の低減と出口流れ(後段羽根車の入口流れ)の一様化の両立に成功した。
最適化した各要素を組み合わせてポンプ全体の流れ解析を行い,全体性能を評価した。図4は非定常解析から得られた長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布の時間平均値を示している。左図が改善前の形状,右図が改善後の形状である。改善後では後段羽根車入口に流入する流れの偏りが改善されていることが分かる。
前記設計手法と実物ポンプ性能を比較検証するため,製作段階においては,性能を左右する羽根車とケーシングについて3D計測や形状ゲージなどによって寸法や形状確認を行った(図5)。そして製作誤差が大きいところは形状修正を行い,流路が設計どおりの形状となるように仕上げた。本ポンプの試験結果は設計時に非定常解析から計算したポンプ性能とよく合っており,この設計・製造手法が妥当であることが確認できた。
ポンプ効率に影響を及ぼす要因としては流路形状損失のほかに,ウェアリングなどの摺動部の漏れ損失,羽根車背面の円板摩擦損失,軸受のような機械的損失などが挙げられる。本ポンプでは摺動部の漏れ損失を低減すべく,ポンプ軸についてたわみと横振動解析などを行った上で従来の同形式ポンプよりもウェアリング隙間を狭くした。
図4 長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布 (左:改善前,右:改善後)
図5 ボリュート舌部:形状ゲージによる形状確認
今回新規設計した流路形状を形づくるためには,ケーシング形状が複雑になるため,詳細な強度検討が必要となる。そこでケーシングの構造設計では,FEM(Finite Element Method)による構造解析を繰り返し行い,強度の弱い部位には適切な箇所に適切な形状のリブを配置して応力に問題がないことを確認した上で,最終構造を決定した(図6)。
図6 ケーシングのFEMによる構造解析結果
世界の水不足は,増え続ける人口と気候変動などによりますます深刻化していくことが予測されて久しい。そういった中,大きな水がめである海から,気候によらず安定して淡水を得られる海水淡水化技術は,水不足対策の一つとして有効な手段である。その技術の中でも造水コストの面で優れ,CO2排出量の少ないRO膜法は今後も主流であり続けると予想される。当社は,この分野において今後も優れたポンプを供給し続け,世界的に深刻化する水不足の解決の一助として貢献していきたい。
最後に,本執筆に当たりカールスバッドプロジェクトや海水淡水化プラントの情報と資料の提供にご協力をいただいた本ポンプの使用者に当たるPoseidon Water社に深く謝意を表する。
1) POSEIDON WATER homepage: https://www.poseidonwater.com/carlsbad-desal-plant.html
2016 Carlsbad Desalination Project homepage: http://carlsbaddesal.com/
2) Global Water Intelligence. 2008 Desal Data, GWI/IDA
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