西井 啓典* Akinori NISHII
片岡 直明* Naoaki KATAOKA
樋口 真也* Shinya HIGUCHI
*
水ing㈱
下水汚泥は高いエネルギーポテンシャルを有し,下水道を通して処理場に集約される継続利用可能なバイオマスである。しかしながら,国内では,その利用のための設備費用が制約になり,有効利用率は低い水準にとどまっている。未利用のバイオマスエネルギーの活用を目的として我々は低コストかつ高効率な汚泥消化装置,セミドライメタン® 発酵装置を開発した。セミドライメタン® 発酵装置では,投入汚泥濃度を従来より大幅に高濃度化することに加え,効率的なガス回収を行うために消化日数を短縮した。これらの改善によって従来法と比較して消化タンク容量を最大1/8 の小型化と有効利用可能なガス量の増大を実現した。実証実験結果と併せて,本装置について紹介する。
Sewage sludge has high energy potential as continuously usable biomass energy that is collected at treatment plants through the sew- erage system. However, in Japan, because the facility costs for the utilization of sewage sludge are high, its effective utilization ratio has been low. Aiming to use the unused biomass energy, we developed a semi-dry anaerobic digester, which is low-cost and high-effi- ciency sludge digestion equipment. The semi-dry anaerobic digester can not only much more highly concentrate feed sludge than before, but also shorten the digestion period for efficient gas collection. Based on these improvements, the capacity of the digestion tank can be minimized to one-eighth of that of conventional ones, and the amount of effectively usable gas can be increased. This paper introduces the semi-dry system along with the results of demonstration tests.
Keywords: Methane fermentation, Anaerobic digestion, Sewage sludge, Biosolids, Energy recovery
下水汚泥は次のような特徴をもったバイオマスである。
高いエネルギーポテンシャルを有する
下水道を通して集約される(輸送不要)
継続利用可能である
本セミドライメタンⓇ発酵装置の開発に当たっては, 次の点を重点課題とした。
(1)
低コストであること
(2)
装置自体での消費エネルギーが少なく,有効利用可能な熱量が多いこと
(3)
維持管理が容易であること
図1 セミドライメタン<sup>Ⓡ</sup>発酵装置概念
投入汚泥を高濃度化することによって投入汚泥容量を低減する。ただし,投入汚泥の高濃度化によって,
・消化過程でのアンモニア阻害
・消化タンク内の高粘度化による混合不良
が懸念されたため,室内実験等によって検証し,投入汚泥濃度は8%程度が最適であると判断した。従来の標準的な下水汚泥消化設備では投入汚泥濃度が2~4% 2)であるため,8%とすることで投入汚泥容量は従来比1/4~1/2となり,消化タンク容量及び投入汚泥の加温に要する熱量もそれにほぼ比例して低減することが可能である。
実績データから求めた消化日数とガス発生量の関係(図1の右図)から,発生ガスの大半は消化日数15日以内に発生することが分かる。本装置では,消化タンク容量あたりのガス回収率向上のため,従来20~30日 3)としている消化日数を15日とした。これによって消化タンク容量は従来比1/2~3/4とすることが可能である。
2-1節及び2-2節で示したとおり,本装置では従来消化設備と比較して消化タンク容量を最大1/8に小型化が可能であることが見込まれる。
さらに,投入汚泥容量の低減及び消化タンクの小型化によって,加温に要する熱量を低減できるため,有効利用可能なガス量を増大することが可能である(図2)。
図2 本装置の効果
セミドライメタンⓇ発酵装置は図3に示すように濃縮部と消化部で構成される。それぞれについて以下に詳述する。
図3 セミドライメタン<sup>Ⓡ</sup>発酵装置模式図
高分子凝集剤を添加・凝集した混合生汚泥が濃縮部の水平スクリーン入口部に投入され,特殊機構によってスクリーン上を出口方向に搬送される。投入された凝集汚泥は搬送される間に水切りが行われ濃縮される。スクリーン上の汚泥はスクリーン出口部に設置された背圧機構によって更に濃縮される。
濃縮部で汚泥濃度約8%に濃縮された汚泥は直接又は圧送ポンプによって消化タンクに投入される。消化タンク内は加温設備によって中温(35℃)に維持されるとともに,機械式かくはん機でかくはん・混合され嫌気性消化される。消化タンク容量は効率的なガス回収のため,消化日数が15日となる容量である。
消化方式は1 段消化であり,消化タンクは鋼板製円筒型を基本とするが,既存の様々な形状のRC構造タンクにも適用可能である。
本装置の性能を実証するための試験を下水処理場に設置したパイロットプラントによって実施した。パイロットプラントのフローシートを図4,実証実験装置の写真を図5,6に示す。処理場の初沈重力濃縮汚泥と余剰汚泥を混合した混合生汚泥(初沈:余剰固形物混合比=2.5:1)を原汚泥とし,この原汚泥にカチオン系高分子凝集剤を添加して濃縮部で濃縮した汚泥を消化部に投入した。
試験条件及び結果を表,図7,8,9に示す。濃縮部では平均1.4%濃度の投入汚泥に対し,薬注率0.5%(対TS)以下の条件で8.4%濃度の濃縮汚泥が得られた。固形物回収率は平均95%以上であった。消化部ではこの濃縮汚泥を消化タンクへの投入汚泥とし,平均消化日数14.5日の連続中温消化試験を行った。その結果,試験期間を通して消化汚泥のpHは安定して推移(平均7.3)し,有機酸濃度は最大で88 mg/ℓと問題ないレベルであった。また,平均投入汚泥濃度8.4%に対して消化汚泥濃度は平均4.2%,VS分解率は平均56.3%で良好な有機物分解性能を確認した。下水汚泥の消化ではVS分解率は一般的に40~60% 3)であるが,消化日数を短縮した本装置でも同等の分解率が得られることが示された。
試験期間中の消化タンク容量あたりの消化ガス発生量は平均2.1 m3/(m3・d)(NTP)であったが,従来の下水汚泥の中温消化では最大で1.0 m3/(m3・d)(NTP)程度 2),3)であり,本装置が高いガス回収効率を有することが確認された。
図4 実証試験装置フローシート
図5 実証試験装置(濃縮部)
図6 実証試験装置(消化部)
試験条件 | |||
濃縮部 | 凝集剤種類 | 高分子凝集剤 (1 液) |
|
薬注率 %(対TS) | 平均:0.41 範囲:0.30 ~ 0.52 |
||
消化部 | 消化温度 ℃ | 35 ~ 37 | |
平均消化日数 | 平均:14.5 範囲:12.0 ~ 16.0 |
||
試験結果 | |||
濃縮部 |
濃縮部投入汚泥濃度 % | 平均:1.4 範囲:0.9 ~ 1.9 |
|
濃縮汚泥濃度 % (消化タンク投入汚泥濃度) |
平均:8.4 範囲:7.1 ~ 9.8 |
||
固形物回収率 % | 平均:96.0 範囲:94.2 ~ 99.1 |
||
消化部 |
消化汚泥性状 |
pH | 平均:7.3 範囲:6.9 ~ 7.6 |
TS濃度※1 % | 平均:4.2 範囲:3.7 ~ 4.7 |
||
VS濃度※2 % | 平均:3.3 範囲:2.9 ~ 3.6 |
||
VS分解率 % | 平均:56.3 範囲:46.6 ~ 64.6 |
||
消化タンク容積あたりの消化ガス発生率 [m3/(m3・d)(NTP)] |
平均:2.1 範囲:1.7 ~ 2.5 |
※ 1 TS:Total solids 固形物量
※ 2 VS:Volatile solids 有機物量
図7 濃縮部試験結果
図8 消化汚泥pH,有機酸濃度の推移
図9 投入汚泥,消化汚泥濃度の推移
下水汚泥は高いエネルギーポテンシャルを有し,下水処理場に集約され,継続利用可能なバイオマスでありながら,そのエネルギーとしての利用率はいまだ低い水準にとどまっている。当社で開発したセミドライメタンⓇ 発酵装置は,従来の下水汚泥消化設備と比較して低コストかつエネルギー回収効率が高く,下水汚泥のエネルギー利用の促進に貢献できるものと考える。
1) 国土交通省HP 資源・エネルギー循環の形成 下水道における資源・エネルギー利用の現状.(現在該当ページ無し)
2) 日本下水道協会編:下水道維持管理指針 実務編- 2014年版-, p.822,p.833.
3) 日本下水道協会編:下水道施設計画・設計指針と解説 後編-2009年版-,p.341,p.343,p.359.
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