佐藤 忠* Tadashi SATO
福住 幸大* Yukihiro FUKUSUMI
小博 基司* Motoshi KOHAKU
宮地 智哉* Tomoya MIYACHI
上総 雅裕* Masahiro KAZUSA
鈴木 貴之** Takayuki SUZUKI
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荏原冷熱システム(株)
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風水力機械カンパニー 企画管理技術統括部 技術開発部
省エネルギー・コンパクト・短納期を特長とする新型ターボ冷凍機RTXF型を開発し,販売を開始した。本製品は,当社主力製品であるRTBF型に続く新機種として位置付けられ,構造を刷新することで,省エネルギー・コンパクト化・短納期を達成した。本機の特長はインバータを標準搭載としたギアレス構造の圧縮機にある。新型冷凍機の評価試験では,現行機RTBF型と同等以上の性能を得た。
EBARA has developed and released a new centrifugal chiller model RTXF, featuring lower energy consumption, a compact size, and a shorter delivery period. Positioned as the successor to EBARA’s core model RTBF, the product structure was totally redesigned in order to achieve these features. It is characterized by a gearless-type compressor equipped with an inverter as a standard component. In an evaluation test, the new centrifugal chiller model RTXF proved itself to be equal or superior to the current model RTBF in performance.
Keywords: Centrifugal chiller, High-speed motor, Inverter drive, Gearless direct drive, Low-pressure refrigerant, Low-noise design, Small footprint
省エネルギー・コンパクト・短納期を特長としたターボ冷凍機RTXF型の販売を2017年1月から開始した(図1)。
新型冷凍機は,当社[荏原冷熱システム(株)]の主力製品であるRTBF型に続く新機種として位置付けられ,荏原グループの最新技術を投入するとともに,構造を刷新して省エネルギー・コンパクト化・静粛運転・短納期対応を達成した。まずはターボ冷凍機の国内市場で最も出荷台数の多い冷凍容量域220 USRTから300 USRTをターゲットとして市場投入を行ったので本稿で紹介する。
図1 ターボ冷凍機RTXF型
近年,エネルギー問題への関心が高まり,企業に対して「地球温暖化防止」「CO2排出量削減」への社会的要求が高まりつつある。
ターボ冷凍機の長所は,他の方式の冷凍機に比べ効率が良く,大容量への対応が可能,容積式に比べ騒音・振動が少なく,火気不使用,さらに適切なメンテナンスによって長寿命で運用できることにある。
大型冷凍機の主流であるターボ冷凍機に対してお客様から更なる省エネルギー化の要望があるが,ターボ冷凍機の効率は,従来技術の延長では理論的に限界に近く,いま以上の高効率化には,装置の複雑化・大型化,部品点数の増加を伴う。
そこで,新たに開発するターボ冷凍機は,以下の製品コンセプトを掲げて仕様を決定した。
・インバータを標準搭載した部分負荷特性向上
・コンパクト化による設置面積の大幅削減
・パッケージ化による短納期対応
・高圧ガス保安法に該当しない低圧冷媒の採用
これらの製品コンセプトに基づいた新型冷凍機の構成詳細を以下に記す。
図2に今回開発したターボ冷凍機RTXF型の外形図を,表に代表仕様を示す。
冷凍機全長を極限まで短くすることで,現行機RTBF型に比べ,伝熱管交換に必要となる保守スペースまで含めた必要設置面積を24 %削減した(図3)。
本冷凍機は分割搬入が可能である。冷凍機の搬入経路の確保が困難な場所,あるいは搬送・輸送機器(例えばエレベータ,クレーン)の重量制限がある場合は,冷凍機を構成要素ごとに分割して冷凍機設置場所に搬送し,現地で組み立てることで設置場所の自由度が広がった。新型冷凍機の分割搬入姿の例を図4に示す。
項 目 | 数 値 | |
冷凍能力 | 300 USRT | |
1055 kW | ||
冷 水 | 入口温度 | 12 ℃ |
出口温度 | 7 ℃ | |
流量 | 3020 L/min | |
冷却水 | 入口温度 | 32 ℃ |
出口温度 | 37 ℃ | |
流量 | 3550 L/min | |
電 圧 | 400 V | |
質 量 | 6.0 t | |
寸 法 | 幅 | 2300 mm |
長さ | 3300 mm | |
高さ | 2080 mm |
図2 ターボ冷凍機RTXF型の外形図
図3 現行機RTBF型と新型機RTXF型の設置面積比較
図4 分割搬入の例
本機のフローシート概要を図5に示す。
本方式は,エコノマイザの採用による高いCOP※1を達成する冷凍サイクルである。二段の遠心圧縮機を用い,凝縮器からの冷媒液を減圧機構で膨張させ,温度が低下した冷媒液だけを蒸発器に送って冷凍効果の増大→冷媒循環量の削減→圧縮動力の節約を図り,高いCOPを達成することができる。
膨張弁(減圧装置)は,高段側(凝縮器~エコノマイザ),低段側(エコノマイザ)とも可変流量制御機構として電動バルブを用いている。電動バルブ開度を適宜調整することで,冷凍サイクルへの寄与が乏しいガス循環量を抑制し,冷媒液の流れだけになるように循環量を制御することにより高いIPLV※2を達成することができる。
※1 COP:Coefficient Of Performance(成績係数,定格能力運転時における消費電力あたりの冷房能力)
※2 IPLV:Integrated Part Load Value(期間成績係数,部分負荷運転含む消費電力あたりの冷房能力)
図5 2段圧縮エコノマイザサイクル フローシート
冷媒はサイクル効率が比較的高く,高圧ガス保安法に関わる諸手続きや冷凍保安責任者の選任が不要である低圧冷媒HFC245faを採用した。RTXF型は分割搬入・現地組立に対応する構成にしたが,現行機と同様,冷媒に関する法的手続きは不要である。このように低圧冷媒の採用と装置の分割構造によって,施工期間を含めたお客様の負担を軽減できる。
前述のように圧縮機は二段圧縮機であり,一段目羽根車,二段目羽根車ともその入口(上流側)には,現行機RTBF型同様,流量制御用の可変ガイドベーンを設けている。
羽根車効率を確保するために出口周速マッハ数は1.0程度とした。さらに,圧縮機全体の効率を向上するように,荏原グループの最新技術である羽根車の効率が高い流量係数の領域で,一段目と二段目の羽根車の流量係数の最適な組合せを選択した。流体要素の効率指標となるポリトロープ効率とポリトロープヘッドの実測結果を図6に示す。参考に同条件で測定した現行機RTBF型のポリトロープ効率を併記する。また,図6において,横軸はRTBF型の設計点の流量で,左の縦軸はRTBF型の設計点のヘッドで,右の縦軸はRTBF型の設計点の効率で,それぞれ無次元化されている。新型の圧縮機の効率は現行機RTBF型に対して3 %向上し,かつ,効率が高い流量域が広い。本圧縮機は,3次元逆解法設計技術を実用化したものである 4)。
電動機は羽根車と同軸の直結構造とし,インバータが生成する高周波電源で高速回転駆動する。この構造によって,商用周波数での直接駆動に必要があったギアをなくした。
ギアレス,軸受の減少によって,機械損失(摩擦損失)が縮減され,COP向上に貢献した。機構部品の削減は,圧縮機の小型化に結びつき,ターボ冷凍機本体のコンパクト化に大きく寄与した(図7)。
図6 現行機RTBF型と新型機RTXF型の圧縮機性能比較
図7 現行機RTBF型と新型機RTXF型の圧縮機外観
新型冷凍機では,現行機RTBF型で標準装備されていたサブクーラを削除した。サブクーラを用いれば,冷凍能力が増え,同時に冷凍効率が向上するものの,部品点数の増加によって製品価格上昇につながる。新型冷凍機におけるサブクーラ削除に伴う性能の低下は,伝熱効率に優れる新型伝熱管の採用による凝縮器伝熱性能強化で補填できた。また,缶胴の全長を,従来機の3.9 mから2.5 mに短縮し,冷却水圧力損失の上昇を抑えることとした。
負圧部の微細な漏れ箇所から冷凍機内部に侵入した外気は,不凝縮ガスとして凝縮器内部に滞留・蓄積し,入出熱交換を阻害するため,LTD※3の増大をもたらす。LTDが増大することによって,冷凍能力は低下し,圧縮機の揚程上昇が起因となる高圧故障などの不具合を生じる。このため低圧冷媒が使用される冷凍機では,機内に侵入した不凝縮ガスを速やかに機外に排出(抽気)する必要がある。RTXF型の開発試験では,凝縮器の複数個所で抽気評価を行い,抽気箇所の最適位置を決定した。開発過程で得られた抽気方法によって,実運転条件で確実に抽気でき,LTDを低減できることが確認された。新型伝熱管の採用と抽気箇所の最適設計によって,RTXF型の総括伝熱係数は現行機RTBF型比で30 %向上し,LTDを大幅に低減することができた[図8(a)]。
※3 LTD:Leaving temperature difference (熱交換器出口の水と冷媒の温度差,小温度差ほど冷凍機性能が向上)
凝縮器同様,現行機RTBF型より全長を短くし,各種の伝熱効率向上施策を組み入れた。具体的には,最新の高効率な伝熱管を採用し,最適な配列にすることによって,総括伝熱係数は現行機RTBF型比で8 %上昇している。このように現行機と比較した結果,LTDを大幅に低減することができ[図8(b)],さらに現行機に比べて冷媒充填量も削減することができた。
一般空調用途における冷水の蒸発器入口と出口温度差は5 ℃が一般的であるが,5 ℃以上の温度差対応が必要な場合は,蒸発器のパス数を増やして対応する。新型ターボ冷凍機の蒸発器は,各種パス数に対応した伝熱管配列を採用したので,蒸発器両端の水室構造の変更だけで,パス数を切り替えることができる。これによって蒸発器の構造を変更しなくても大温度差の冷水の取り出しに対応することができる。以上のように,パス数の増減に対応可能な新しい缶胴構造の採用によって標準構成品の在庫化ができるため,納期を大幅に短縮することが可能となった。
図8 現行機RTBF型と新型機RTXF型の熱交換器性能比較
リリースしてから10年を経過している現行の制御盤は,様々な機能要求に応える形で,能力増強と改修を行ってきた。新型制御盤は,制御能力の更なる向上,多機能化,多入出力傾向の中で発展性のある構造が求められていた。また,冷凍機種・方式によらず,水平展開可能な制御盤を新たに開発した。
その特長は
a)仕様の早期確定
過去5年間の制御仕様調査に基づき決定した標準仕様項目・オプション仕様項目をお客様へ事前提示できるようにした。
b)設計リードタイムの短縮
使用する部品を標準部品群・オプション部品群に分類し,標準部品にオプション部品を付加する定型手段で,制御盤を構築できる。
c)製作納期の短縮
標準部品を組み込んだ中間の状態でストックできる。
次に新型制御盤の機能強化内容について説明する。基板間接続にCAN通信を採用し,芋づる式(daisy chain)に基板の拡張が可能となった。これによって,入出力点数の増加にも容易に対応することができる。また,冷凍機を構成するユニットごとに基板を分散配置させ,各基板をCAN通信することも容易である。この対応によって,冷凍機の派生機種によって異なる基板にも柔軟に対応することができる。
操作部・表示部は,最小限の機能として,モノクロ液晶表示画面を標準装備している,一方,視認性と操作性に優れた高品位の設備を要求するお客様への対応として,大型カラータッチパネルをオプションとした(図9)。
図9 標準操作パネル(左)と大型カラータッチパネル(右)
通信による遠隔監視を要求するお客様に対し,業界で普及しているModbus通信を標準装備した。冷凍機運転状態の時系列データを制御盤内部に保持しており,保存容量を現行機RTBF型の32 kByteから4 MByteに増強した。これらのデータはトラブル時の原因究明だけでなく,予知保全による保守提案にも有用である。内部データは標準装備のUSBポートから読み出し可能であり,さらに市販のUSB-Bluetooth変換器を接続することで,タブレット等の端末機器で運転状況を確認することもできる。
インバータとその一次側(上流側)に設ける遮断器は,冷凍機標準装備とし,冷凍機本体に取り付けられた形態で出荷され,据え付け場所へと搬送される。現行機RTBF型では,遮断器やインバータのセットは,冷凍機本体と独立した別筐体に収められ,冷凍機とは別々に設置されたのち両者を接続する必要があった。この形態では,上記付帯電源設備の設置スペースが必要となる。
新型ターボ冷凍機RTXF型は,冷凍機設置後の電源ケーブル敷設は,遮断器に引き込むための配線だけとなるため,電気工事の負担を大幅に軽減できる。
開発した新型ターボ冷凍機RTXF型は,当初の目標どおり,COP,IPLVで現行機RTBF型と同等あるいは若干上回る数値を確認した。定格運転時の騒音値は最高でも80 dB(A)以下,振動振幅は5μm以下であり,大型冷凍機としては低騒音で振動の少ない機種である。
本報告では,従来機種の性能を確保しつつ,省エネルギー・コンパクト・短納期を実現したRTXF型ターボ冷凍機を紹介した。今後は,定格及び部分負荷における更なる高効率化,容量拡大,吸収冷凍機,スクリュー冷凍機との最適組み合わせ制御など,幅広い視野をもって開発を発展する所存である。
現在当社では地球の温暖化改善のために,地球温暖化係数(GWP)が非常に小さい冷媒をターボ冷凍機に適用すべく研究開発を行っている。
1) 前田健作,藤原了,望月貞一,新ターボ冷凍機,エバラ時報,No.137,P.30-37(1987-5).
2) 佐藤裕一,徳丸徹,仙田卓寛,省エネルギー形ターボ冷凍機RTCシリーズ,エバラ時報,No.206,P.39-42(2005-1).
3) 山口忠司,井上修行,佐藤忠,金子淳,本田修一郎,渡邉啓悦,超高効率ターボ冷凍機の開発,エバラ時報,No.224,P.3-9(2009-7).
4) 渡邉啓悦,関野夕美子,3次元逆解法と流れ解析を用いたターボ機械の最適化設計,エバラ時報,No.235,P.3-8(2012-4).
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