香川 修作* Shusaku KAGAWA
渡邊 裕輔** Yusuke WATANABE
渡邉 啓悦* Hiroyoshi WATANABE
内海 政春*** Masaharu UCHIUMI
島垣 満**** Mitsuru SHIMAGAKI
川崎 聡**** Satoshi KAWASAKI
*
技術・研究開発統括部 製品コア技術研究部
**
技術・研究開発統括部 基盤技術研究部
***
室蘭工業大学
****
(国研)宇宙航空研究開発機構
本研究の目的は,JAXA Dynamic Design Team(JAXA- DDT)によって開発されている形態最適化設計技術を産業用立軸多段ポンプへ適用しその効果を確認することである。形態最適化設計技術の産業応用に当たっては,特にコスト・振動安定性・流体性能のトレードオフ関係が重要となる。形態最適化設計技術を適用した結果,従来のポンプと比較してコスト削減・振動安定性の向上・流体性能の向上が期待できる新しいポンプ形態を得られることが明らかになった。また,本研究で提案・実施した最適化設計プロセスが産業用立軸多段ポンプに適していることも併せて確認できた。
The objective of this study is to apply a morphological design, developed by JAXA Dynamics Design Team, into an industrial multistage vertical pump, and to confirm the effect of the Morphological design. In order to apply the morphological design in the industrial design, the tradeoffs between cost, performance and reliability are very important. The result of the morphological design in the industrial pump shows the decrease in the cost, the improvement of the hydraulic performance and the reliability compared with the ordinary design pump. It is confirmed that the morphological design process proposed in this study is suitable for industrial multi-stage pumps.
Keywords: Pump, Design, Design optimization, Vibration, Performance improvement, Morphological design
現在の産業界におけるポンプあるいは圧縮機などターボ機械の設計・開発過程では,効率最大化に重きが置かれ,羽根車や固定流路などの流路部分の形状並びにその配置を決定した後,軸受,シール,ロータ部分の機械要素の詳細設計を行うのが一般的である1)。こうして設計された機械においては,過大振動発生などのトラブル発生時に修正可能な部分が少なく,そのため,応急処置的な対策のみが施されやすく,かつ再作業などで多大なロスコストを発生することがある。そこで,共著者らは効率に重点をおいた従来の設計手法から発想を転換し,回転機械としての信頼性を最重要とした多領域(流体,振動,構造)最適化設計技術として,形態最適化設計技術の研究を行っている2)~4)。
本研究では,共著者らによって開発されたロケット用ターボポンプに対する形態最適化設計を一般産業用ターボ機械へ適用し,この設計手法の効果を確認することが目的である。中でも,産業応用に当たってはコスト・振動安定性・流体性能のトレードオフ関係を考慮することが特に肝要であるため,形態最適化設計の多領域最適化を活用した新しいポンプ形態の可能性を検討する。
さらに,構築した設計プロセスの高度化を目的として,羽根車や水中軸受などの配置配列を設計変数とする形態最適化の優位性,本研究で提案した設計プロセスの有効性を確認する。最後に,得られた解の実現に向けて,最適解に対して製造ばらつきを与えたときの解のロバスト性について検討する。
形態最適化設計の特徴のひとつは,ポンプを構成する羽根車や軸受など各要素の配置配列を設計変数として取り扱うことである。そのため,この特徴を最大限に活かすためには各要素の配置配列を自在に変更でき,その改善効果が明確となるポンプを選定するのが適している。そこで,本研究では,ポンプ構成要素の配置配列が他のポンプと比較して容易に変更できる形式として,図1に示す立軸多段ポンプを形態最適化設計適用の対象とする。立軸多段ポンプは,配置配列の観点から,初段羽根車が入口吸込圧力の条件(NPSH)によって全体の軸長を決定していることや,その長い軸にわたって必要な揚程を確保するための羽根車を自由に配置できること,また水中軸受の配置に対しても自由度が高いことなどから配置配列の検討が容易である。立軸多段ポンプは図1に示すように吸込側のケーシングである吸込ベル,中間ボウル,吐出しボウル,羽根車からの揚液を吐出し口まで導く揚水管などが静止側の構成要素であり,回転体は主軸に配置された羽根車と水中軸受から構成されている。本研究では,3段,すなわち羽根車が3個,水中軸受が4個の立軸多段ポンプを検討対象とした。
図1 検討対象とした立軸多段ポンプ
共著者ら2)~4)における形態最適化設計は,ターボポンプの構成要素である,羽根車・軸受・インデューサ・駆動用タービンの配置配列を検討するSTEP-1,次に軸受の幅や隙間などの回転体形状を詳細に設計するSTEP-2の2段階に分かれている。各段階においては,信頼性を表す各種軸振動特性を計算し最適化を実施する設計プロセスになっている。そこで,本研究にて同様の形態最適化設計を試行したところ,立軸多段ポンプでは床下静止部の設計変数が最適解に対して感度が高いことが判明した。このようなことからSTEP-1,2のような本計算を実施する前に床下静止部の軸振動特性と剛性を確保する設計プロセスを実施しておくことが有効と考えられた。そこで,STEP-0として揚水管の設計を最適化するプロセスを導入した。このような改善を行った形態最適化設計プロセスを図2に示す。なお,参考のため図1中には各STEPにて最適化する部分を示している。
本研究で使用した軸振動解析プログラムは図1に示すような産業用の長い軸をもつ立軸多段ポンプの軸振動を予測するプログラムであり,一般的な軸振動計算プログラムに対して,下記のような特徴をもっている。
(1)回転部と静止部の振動を同時に解くこと。
(2)立軸回転体を扱うこと。
(3)STEP-1にて機械要素の配置配列のサーベイを扱うこと。
(4)STEP-2にて各要素の寸法に関して最適化計算を実施すること。
上記のような特徴をもつプログラム群を開発し,最適化計算に用いた。
なお,本研究では,形態最適化設計によってポンプ仕様点を変更しないため,既存羽根車の流路形状をそのまま使用する。また,形態最適化設計プロセスの特徴は,複合する多領域にわたるポンプの最適設計手法である2)~4)。すなわち,従来の流体設計優先の設計手法ではなく,流体設計と同時に安定性を表す振動特性やコストに関する最適化を行い設計する。そのため,異なる評価尺度をもつ特性に対して,優先順位を決定する必要があり,共著者らはQFD(Quality Function Deployment)を使用して顧客からの要求から重みを算出することによってこの優先順位を決定している。QFDとは,品質機能展開と訳され,顧客の要求品質の把握から始まり,企画品質から設計品質の設定までの全てを見える化する手法である5)。本研究では,主にSTEP-2で行う多領域最適化における評価関数であり,トレードオフ関係にあると推察されるコスト・振動安定性・流体性能に対する重みをQFDによって明確に数値化した。このように各要求に対して重み付けを実施することによって,STEP-2における多領域最適化プロセスを単目的の最適化プロセスに変換できるため最適化計算が容易になる。
STEP-2では軸振動計算と同時に,本ポンプのコスト評価及び流体性能変化率の評価を都度実施する。コスト算出は,購入品の場合は購買単価(体積比例),加工品の場合は素材重量単価と加工コスト(人件費)を算出する。最適化によって特性(形状)が変化する部品に関して設計変数に基づく生産コストを算出し,ポンプ全体のコスト積算値を初期形状(本ポンプの初期状態)と比較した。一方,ライナリングなどの環状シールは軸振動に対する影響のほかに,流体性能への影響も及ぼすことが容易に推測できる。そのため,これらの寸法が変化する場合には,軸振動計算のほか,流体性能の変化を予測する必要がある。本研究では,羽根車の流路形状を変更しないことの利点を活かして,設計変数の流体性能への影響は,軸スラスト予測コードThrush6)を使用して,STEP-2の各設計変数によって変化する漏れ量と円板摩擦損失を予測し,1次元計算によって流体性能の変化を予測した。
最終的には,STEP-1では最小システム減衰比・離調率・不釣合い応答の軸振動特性を,STEP-2ではコスト・振動安定性・流体性能のポンプ特性を最適化の目的関数として使用する。各特性の線形和を計算する方法は,文献3)と同一である。
図2 提案した形態最適化設計プロセス
図2に示した形態最適化設計プロセスに従って,産業用立軸多段ポンプに対して形態最適化の実践を行った。
初めに,揚水管の断面形状を適切に設計するSTEP-0を実施した。STEP-0の実施に当たっては,床下静止部の曲げ剛性及び重量(≒コスト)を考慮する。産業用製品として重量は軽いほど良く,また同じ重量ならば曲げ剛性は高い方が良い。この考えに基づき,揚水管の断面形状(管径,管厚さ,リブ形状・枚数)を素材寸法規格の範囲で様々に変化させ,離調率の制約条件を満たす床下静止部形状のうち,重量を基準として良好なケースを選択し,STEP-1で使用する揚水管の入力条件とする。
STEP-0の実施結果を示したものが図3である。図3は,揚水管重量と揚水管の断面2次モーメントについて整理したものであり,各ケースの床下静止部離調率が制約条件を満たすか否かについても示している。
なお,図3中には代表的と思われる各番号で示した揚水管の断面形状の例を併せている。図3中の□プロット①は本ポンプの現行設計である。
現行設計では制約条件を満たしておらず,周辺のプロットも同様に制約条件を満たしていないもの(●)が多い。一方,離調率の制約条件を満たす解(○)の内,最もコストが低いものがSTEP-0の最適解となる。すなわち,図3中の②(Case2)が最適解である。そこで,この②をSTEP-1での入力条件とした。
図3 STEP-0の実施結果
配置配列の最適化計算STEP-1を実施するに当たって,本研究では,長い主軸に要素配置用のポイントを設け,軸受N個と羽根車M個がどこに配置されるかという問題として扱った。その結果,検討ケース数は増加するが,ケースごとの計算時間は短いため,全ケースの計算を実施した。つまりSTEP-1では与えた条件下における最上位解は必ず得られることになる。
目的関数に関しては,軸振動に関するQFDを実施し,またその後の試行計算の結果から,評価すべき特性として①離調率,②最小システム減衰比,③不釣合い応答との結果が得られた。そこで回転部,床下静止部それぞれについての計算結果を,重み付線形和でスコア化し単目的関数とした。
STEP-1では配置配列の総組合せによる軸振動計算を実施しているため,上位解の特徴について考察が可能である。その結果,初段,2段目の羽根車はポンプ下方に位置し,最終段のみ上方に位置する特徴があった。
最終的に得られたSTEP-1における最上位解は,立軸多段ポンプ現行設計に対して,回転部減衰比に換算すると8.03 %相当,床下静止部減衰比に換算すると2.82 %相当,不釣合い振幅に換算すると77.3 µmp-pの大きな改善があったことが確認できた。
STEP-0,1で,揚水管及び配置配列の軸振動に対する最適化が実施できた。つぎに,STEP-2ではライナリングなどのシール部に代表される設計寸法の最適化を実施する。最適化に当たり,目的関数としてはコスト・振動安定性・流体性能の変化率の線形和であり,各特性の重みはQFDによって決定した。
図4は,STEP-1での最適配置配列において各設計変数の最適化を実施した結果について示しており,コスト・振動安定性・流体性能特性を示している。それぞれ横軸に振動安定性スコア,縦軸にコスト削減率及び流体性能変化率を示している。また,標準設計+標準形態を●で,STEP-0,1完了後のCase2の計算結果を▲で,STEP-0,1終了後に振動安定性スコア最大を目的とした解について□で示しており,総合スコア最大を目的とした計算結果の上位解を■で示している。また,図4にはコストモデルから計算される設計変数範囲における達成限界を実線で,流体性能変化モデルから計算される性能向上限界の予測を点線で示している。なお,それぞれの軸は現行形状の値にて無次元化している。
図4から総合スコア最大とした■はコスト・流体性能ともに理論上の達成限界に近くそれぞれの重み付けられた最適解が得られていることが示されている。
なお,□で示される振動安定性を優先させた解を選ぶと最適解よりもコストは上昇し,流体性能は僅かに低下することが示されている。
振動安定性スコアに対して,STEP-2の実施によって,最小システム減衰比・離調率・不釣り合い応答のうち,どの特性が改善しているのかを明確にするために,図5には現行形状に対する最小システム減衰比及び最小離調率を表す回転速度に最も近い固有振動数の比と,両対数グラフで不釣り合い応答の計算結果を,回転部を横軸に,静止部を縦軸に示している。総合スコアで最適化された解は,■で示しているが,離調率が十分に確保され,回転部最小システム減衰比が30%程度,静止部最小システム減衰比は上限付近,不釣り合い応答は全計算の中でほぼ最小となっており,軸振動特性は非常に良好である。一方,□で示す軸振動安定性を優先とした解では,総合スコアで最適化された解■よりも主に不釣り合い応答が改善しているために,振動安定性スコアが向上していることがわかる。
図4 STEP-2による最適化計算結果
図5 軸振動特性に対するSTEP-2の実施結果
前節にて,STEP-0によって最適化された揚水管の断面形状に対するSTEP-1の上位解に対して,STEP-2を実践した。形態最適化設計の実践結果を明確にするために,図6には現行ポンプ形状と比較した実践結果を3DCADモデルにて示している。最適化されたポンプでは,現行ポンプと比較して,図6下線部に示したように,以下のような特徴がみられる。
・揚水管断面の口径が小さくなりリブが削減される。
・初段と2段目羽根車の位置が離れ,更に3段目の羽根車も下流側に配置されている。
・水中軸受と羽根車がついになって配置されている。
このようにポンプ形態が大きく変化しても,図4から明らかなように,形態最適化設計によって,現行のポンプと比較するとポンプの振動安定性・流体性能・コストの各特性の向上が図られることから,本設計手法の有意性が確認される。
図6 形態最適化実施結果と現行ポンプの3次元CADモデルによる比較
ここでは,形態最適化設計プロセスの有効性の確認と各STEPでの改善効果を明確にするため,あえて,図2に示した設計プロセスの順番(STEP-0・1・2)に従わずに最適化計算を行い,得られた最適解を比較する。
図7には図2中のSTEP-0で検討したうち最適とされた揚水管断面形状を塗りつぶしプロットで,制約条件の中で最適とされなかったもののうち一つを二重プロットで,現行形状を白抜きプロットで,また三角プロットでSTEP-0,1の結果を,四角プロットでSTEP-2の設計結果を,目的関数であるコスト削減率と振動安定性,振動安定性と流体性能変化率に対して示している。また,併せてそれぞれの揚水管断面形状に対して,一点鎖線矢印でSTEP-0,1の改善効果を二点鎖線矢印でSTEP-2の改善効果を示している。更に,現行形状を●で,現行形状でSTEP-2のみを実施したものを○で別に示している。
図7のSTEP-0,1においては流体性能に影響を与える設計因子は変更していないことから,STEP-0,1ではコスト削減と振動安定性の向上であることが示されている。横軸に示される振動安定性スコアについて比較すると,STEP-0,1実施後の順位は,STEP-0最適解(黒三角)>STEP-0最適解以外3(二重三角)>現行(白三角)の順になっている。更に,STEP-2実践後である四角プロットに対しての振動安定性スコアを見ても,同じ順になっておりSTEP-0,1からSTEP-2への過程で上位解の順位に変更がないことがわかる。このことは,本研究対象である立軸多段ポンプに対して,STEP-0,1からSTEP-2とする形態設計の順で実行することが適切であることを示している。また,図3のそれぞれの揚水管断面形状に対して,一点鎖線矢印でSTEP-0,1の改善効果を二点鎖線矢印でSTEP-2の改善効果を示しているが,それぞれの設計段階において,矢印の長さがほぼ同じとなっていることから,STEP-0,1及びSTEP-2での各特性の総合値としての改善効果はほぼ同等であると結論される。
一般に,ポンプの設計における設計最適化は,寸法に対する最適化を意味することが多い。しかしながら,形態最適化設計ではポンプ形態,特にSTEP-1の配置や配列による軸振動特性の改善を行うことが大きな特徴である。そこで,図7から配置や配列の軸振動安定性に及ぼす改善効果について検討する。この検討は,○で示したSTEP-0,1の設計を行わずに,STEP-2の寸法最適化のみを実施した現行形状と,△で示されるSTEP-1のみの設計を行った現行形状,□で示されるSTEP-1,2を実施した現行形状の改善結果の比較から明らかになる。すなわち,現行形状においてはSTEP-2のみ実施後(○)の振動安定性スコア1.058に対して,STEP-1のみ実施した(△)振動安定性スコア1.062,STEP-1,2通して実施(□)では1.084と振動安定性スコアの改善がみられる。この改善は,本稿では示していないが静止部不釣合い応答の改善割合が多く,次に回転部の最小システム減衰比も大きく改善していることを確認している。以上のことから,従来のポンプ設計の概念にはないポンプ形態,配置配列という寸法以外の新しい設計変数を用いることで,設計寸法最適化よりも更に軸振動特性の改善に役立つことが結論される。
図7 各形態最適化設計プロセスにおける最適解の比較
図6に示した最適解における実際の製作を考えると,必ず製造公差と組立公差などに代表される製造ばらつきが存在する。そこで,本章では得られた最適解に関して,各設計変数の考えうる製造ばらつきを与え,最適解のロバスト性と設計変数の感度を分析する。ここでのロバスト性とは,一般的な意味7)よりも広義に解釈し,最適解における製造誤差範囲における設計解の安定性として定義する。
図8には,最適設計変数に対して製作誤差を使用して設計値を含む3水準のL108混合系直交表による,コスト削減率・振動安定性スコア・流体性能変化率の相対値を示し,図8右側には振動安定性スコアの内,回転部並びに静止部における最小システム減衰比及び不釣合い応答の計算結果を示している。なお,それぞれの特性値は,現行形状に対しての比で定義し,図中には最適解に対する変動値を示している。
図8左側に示した各特性値を見ると,製造誤差を考慮した108回の計算においてそれぞれ最適解に対する変動は,振動安定性スコアで0.2 %・コスト削減率で2.2 %・流体性能変化率で0.6 %と非常に小さいことがわかり,得られた最適解は比較的ロバストな解であることを示している。更に,図8右側の振動安定性スコアを形成する各振動特性を見ると,1.6 %から31.3 %までの特性のばらつきはあるものの,各軸振動特性の総合値である振動安定性スコアの変動は0.2 %と非常に小さくなっている。また,最上位の設計解であるため,製作誤差程度の設計変数の変更範囲では,振動モード形状などには大きな変化がないことを確認している。
上記のことから,STEP-2での最適解は,製作誤差を考慮してもロバスト性の高い解であることが結論される。また,最適解の設計変数に対する感度を把握するために,一例として不釣合い応答を取り上げ,その感度解析を実施した。この感度解析結果によって,得られた最適解を製作する上において,管理すべき重要寸法を明確にすることができる。
図9には,回転部並びに静止部に対する不釣合い応答に対する感度解析結果である要因効果図を示している。図中の両矢印でトレードオフ関係にある変数を示している。図9から,不釣合い応答には青点線枠で囲んだ羽根車重量が最も感度が高く(これは不釣合い量が羽根車重量に比例する条件のため自明である),次いで設計変数B・C・Dの感度が高いことがわかる。したがって,不釣合い応答の改善による更なる軸振動安定化は,羽根車重量の低減によって達成できることが示されているが,その改善量は図4に示すSTEP-0,1からSTEP-2への改善量よりも大きくはないことが予測される。また,設計変数A・E・Fは回転部と静止部の不釣合い応答に関してトレードオフ関係にあり,製造誤差に注意しなければならないことがわかるが,高い感度をもつ羽根車重量と比較してその感度は決して大きくはない。図9から,最適解の実現のためには羽根車重量及び不釣合い量を製作公差の範囲に収まるように,製作上管理する必要があると結論される。
図8 L108直交表による製造ばらつきに対する計算履歴
図9 製造ばらつきを与えたときの不釣り合い応答に対する設計変数の感度解析結果
本研究では産業用立軸多段ポンプを対象として,形態最適化設計を実践した。さらに,本研究で提案した形態最適化設計プロセスの有効性確認と高度化を行った。得られた知見は以下のとおりである。
(1)
形態最適化設計の実践によって,コスト・振動安定性・流体性能の多領域で最適化された産業用立軸多段ポンプでは,コスト削減,流体性能の改善,並びに,振動安定性の大幅な向上が期待できる新しいポンプ形態を設計することができた。
(2)
設計プロセスの有効性を確認するために,設計プロセスの実行順や各プロセスを単独で実施し得られた解を比較したところ,本研究で提案した最適化設計プロセスが立軸多段ポンプに対して適していることを確認した。
(3)
形態最適化設計の特徴の一つである,羽根車・水中軸受などの配置配列を設計変数としたことによる軸振動特性における改善効果は,配置配列を設計変数としない場合と比較して大きく,配置配列を設計変数とする意義は大きい。
(4)
STEP-2後の最適解は,設計変数の製造ばらつきに対して,安定な設計解であることが確認できた。また,不釣合い応答に対する最適解の設計変数に対する感度解析を実施した結果,羽根車重量が最も重要であり,製作の観点で管理が重要であることを確認した。
本研究によって,ロケット用ターボポンプに対して研究開発された形態最適化設計技術の知見を産業用立軸多段ポンプへ応用することができ,トレードオフ関係にあるコスト・信頼性・流体性能の多領域を考慮する最適設計を行った新しい産業用ポンプの机上検討ができた。今後の形態最適化設計プロセスに対する更なる改善によって,本設計手法が近年の産業界における更なる高信頼性・高性能化の要求に対応し,かつ製品競争力のあるポンプの設計に大いに役立つと考えられる。
本研究の実施に当たり,JAXA第2期ダイナミック設計チーム(DDT)並びに後藤 彰 技監を始め社内関係者の皆様には,丁寧な指導及び有益な助言をいただいたことをここに記し,深甚なる感謝を表する。
1) Stepanoff A. J. : Centrifugal and Axial Flow Pump, John Wiley and Sons. Inc, (1948).
2) 内海 政春,吉田 義樹:ターボポンプのダイナミック設計(軸振動の抑制をめざしたロータシステムの最適化),ターボ機械,第40巻,第6号,p.578,(2012).
3) 内海 政春,島垣 満,川崎 聡:ターボポンプのダイナミック設計(その2),ターボ機械,第41巻,第10号,p.324,(2013).
4) 川崎 聡,島垣 満,内海 政春,安達 和彦:要素の配置配列をパラメータとしたロケット用ターボポンプの形態設計,日本機械学会論文集 Vol.82 No.842,(2016).
5) 赤尾 洋二:商品開発のための品質機能展開−知識変換のSECIモデルとQFD−, 日本規格協会,(2010).
6) Matsui, J., thrush User’s Guide document version 0.4, (2012).
7) 井上 清和,林 裕人,芝野 広志,大場 章司,中野 惠司:入門パラメータ設計−Excel演習でタグチメソッドの考え方と手順を体得できる,日科技連出版社,(2008).
「ターボ機械協会誌 第45巻 3号」に掲載した内容及び「第78回ターボ機械協会講演会」で発表した内容を一部加筆・修正して転載した。
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