蒲池 一将* Kazumasa KAMACHI
池田 晃啓** Akihiro IKEDA
鈴木 利宏* Toshihiro SUZUKI
千田 祐司* Yuji SENDA
*
水ingエンジニアリング㈱
**
元水ing㈱
密閉式無終端型嫌気性消化槽を開発し,マレーシア国ペラ州にあるパームオイル工場に納入した。処理対象はパームオイル工場排水(Palm Oil Mill Effluent; POME)である。装置は,沈澱池を備えた容量12000 m3の楕円型反応槽を2槽並列し,設計水量は1270 m3/d,CODCr容積負荷は4.0 kg/(m3・d),35 ℃の中温条件で運転するものである。POME通水開始前に,2つの流動性についての調査を行い,流動状態は良好であることが確認された。スタートアップは1槽ずつ行い,POMEの通水開始28日目にはCODCr容積負荷3.9 kg/(m3・d)を達成することができた。POME全量受入時,CODCr容積負荷は2.9 kg/(m3・d),CODCr除去率は87.9~91.5 %(平均89.2 %),バイオガス中のメタン濃度は60.1~60.3 %(平均60.3 %),除去CODCr当たりのメタンガス回収量は0.306~0.453 m3/kg-CODCr(平均0.357 m3/kg-CODCr),NTPの良好な処理性能を達成することができた。
A full-scale plant with two parallel 12000 m3 closed endless stream anaerobic digesters was installed at a palm oil mill in Perak, Malaysia. The digesters treat palm oil mill effluent (POME). The designed palm oil mill effluent (POME) flow is 1270 m3/d, and a chemical oxygen demand (CODCr) volumetric loading rate is 4.0 kg/(m3·d) under mesophilic conditions (35 C˚). Two fluidity investigations were conducted before the loading operation. Based on the results of the two tests, the sludge fluidity was deemed sufficient for the digester. During the first reactor start-up, the CODCr volumetric loading rate of 3.9 kg/(m3
·d) was achieved on the 28th day. When the two reactors were started up and the whole quantity of POME was accepted, the CODCr volumetric loading rate was 2.9 kg/(m3
·d). The CODCr removal rate was 87.9 to 91.5 % (average 89.2 %), and the CH4 concentration of the biogas was 60.1 to 60.3 % (average 60.3 %). The methane gas volume relative to removed CODCr was 0.306 to 0.453 m3/kg-CODCr removed (average 0.357 m3/kg-CODCr removed, NTP). This obtained value is almost the same as the theoretical value (0.35 m3/kg-CODCr removed, NTP), so almost all of the removed CODCr could be recovered as methane.
Keywords: Palm oil mill effluent (POME), Anaerobic digester, Start-up, Mesophilic, Endless stream, Full-scale plant
パームオイルはアブラヤシの果実(図1)から抽出される植物油で,世界で最も生産されている植物油である。2017年のパームオイルの生産量は,全世界で6900万トンであり年々増加している(図2)1)。特に生育に適した気候であるインドネシアとマレーシアは,パームオイル総生産量に占める割合が86 %に達している(図3)1)。パームオイルの生産工程からは,高濃度で脂質や脂肪酸を含有するパームオイル工場排水(Palm Oil Mill Effluent; POME)が排出されている2),3)。従来のPOME処理は,素掘りの池で長期間をかけて嫌気的に処理する嫌気性ラグーン法が取り入れられている4)。しかしながら,この方法では,処理過程で大気中に,温室効果ガスであるメタンを放出し,地球温暖化への一因となっている。2009年のマレーシアにおけるPOMEの嫌気性ラグーン処理で放出される温室効果ガスは,2006年のマレーシア全体で発生する6.4 %を占めるとの報告がある5)。
近年,POMEの処理方法として,処理過程で発生するメタンを大気放出せずに回収する密閉式消化槽が注目されている。メタンを回収する効果を試算した例では,マレーシアにおけるPOMEの嫌気性処理による発電量は2020年までに602 MWであり,CO2の排出量は3.20 Mt 抑制されると予測され,その効果が期待されている6)。
メタンを回収する処理装置は,ゴムなどのカバーを掛けた嫌気性ラグーンや,撹拌機を備えた密閉式反応槽などの検討例がある4)。しかしながら,ラグーンを用いた嫌気性処理は,CODCr容積負荷1.4 kg/(m3・d)と低負荷である7)。一方,密閉式嫌気性消化槽8)や嫌気性MBRなど設置面積の小さい処理装置の適用が検討されているが,これらは建設費や運転コストが高くなるため,効率的なPOME処理装置が求められている。
報告者らは,新規に処理性能に優れる密閉式無終端型嫌気性消化槽を開発した,撹拌機による流動状態,スタートアップ状況を報告する。
図1 アブラヤシと果実
図2 パームオイル生産量
図3 国別パームオイル生産量(2017年)
密閉式無終端型嫌気性消化槽の形状は楕円型で,水路の短径部分にはメンテナンスブリッジが設けられ,そこに設置された4台の水中撹拌機により反応槽を撹拌している(図4,図5)。反応槽の後段には沈澱池が設けられ,反応槽から流出した汚泥を固液分離して反応槽へ返送している。反応槽には高密度ポリエチレン(High-Density PolyEthylene; HDPE)の覆蓋があり,回収したバイオガスは生物脱硫装置で脱硫後,発電機に送られている。得られた電力の一部は地元電力会社に売電し,残りは自家消費している。装置の仕様を表1に示す。反応槽は容量12000 m3を2槽備えている。POMEの処理量は1270 m3/dで,水理学的滞留時間(Hydraulic Retention Time; HRT)は18.9日,CODCr容積負荷は4.0 kg/(m3・d)の中温条件で設計されている。
図4 処理フロー
図5 装置外観
主要設備 | |
反応槽容積 | 12000 m3 |
数量 | 2系列 |
覆蓋 | HDPEシート |
バイオガス利用 | 発電 |
運転条件 | |
水温 | 中温条件(35 ℃) |
処理水量 | 1270 m3/d |
水理学的滞留時間 (Hydraulic Retention Time; HRT) |
18.9 d |
CODCr容積負荷 | 4.0 kg/(m3・d) |
POME性状についてはUS EPAの試験法9)に従った。立ち上げ期間は,pH(TOA/DKK製,PM-10),CODCr (HACH製,DR890),TS(Kett製,FD-720),バイオガス組成(CH4,CO2,H2S),(BINDER製,COMBIMASS※ Portable Gasanalyzer GA-m)を測定した。流速は三次元流速計(JFEアドバンテック製,ACM3-RS)を使用した。
※COMBIMASSはBINDER GmbHの商標です。
反応槽における流動性を確認するため2つの試験を行った。試験1は,反応槽内底部付近で汚泥堆積が生じない流速であるかを確認するため,反応槽に処理水を張った状態でメンテナンスブリッジ付近の流速を水平方向に6点,垂直方向に2~5点,計21点の流速を測定した(図6)。試験2は,撹拌機の撹拌能力を確認するため,種汚泥を投入した状態で撹拌機を運転し,撹拌機直上部の水面下1 mの汚泥濃度の時間変化を調べた(図4,A~D)。
図6 流速分布調査ポイント(メンテナンスブリッジ部の片側)
スタートアップに先立ち,種汚泥のメタン生成活性を確認した。試験は,プラスチックボトルに種汚泥800 mLとPOME 60 mLを投入し,約35 ℃に調整した水槽に浸漬したボトル上部にはガスバッグを取り付け,発生したガス量を所定時間に測定した。
スタートアップは種汚泥として既設の嫌気性ラグーンの汚泥を反応槽に投入し,1槽ずつ行った。POMEは酸発酵池(HRT 5日)から受け入れた。
POME(図7)は茶褐色の排水で,高温で排出されるため,放冷の後に反応槽に投入した。スタートアップ前に行った水質分析結果(スポット)を表2に示す。
POMEのpHは4.3と酸性,TSは69700 mg/L,VSは61600 mg/L,VS/TSは88 %,MLSSは23900 mg/L,MLVSSは12900 mg/L,MLVSS/MLSSは54 %,CODCrは91200 mg/L,Kj-Nは423 mg/L,T-Pは312 mg/Lであった。CODCr,Kj-N,T-Pの比率はメタン発酵に適しているとされる1000:5:1をおおむね満足していた。一方,MLVSS/MLSSの結果より10000 mg/L程度の無機物が含まれるとみられた。
種汚泥のメタン生成活性の試験の結果を図8に示す。試験開始直後からガス発生が確認された。発生ガスのCH4濃度60 %とすると,種汚泥のメタン生成活性度は0.18 g-CODCr/(g-MLVSS・d)であり,十分な活性があると判断された。
図7 POME外観
項目 | 値 | |
pH | (-) | 4.3 |
Total Solid(TS) | (mg/L) | 69700 |
Volatile Solid(VS) | (mg/L) | 61600 |
MLSS | (mg/L) | 23900 |
MLVSS | (mg/L) | 12900 |
CODCr | (mg/L) | 91200 |
Kj-N | (mg/L) | 423 |
T-P | (mg/L) | 312 |
図8 種汚泥のメタン生成能力
試験1の結果を図9に,底部付近と全体の流速を図10に示す。反応槽底部(底部から0.1 m上方)の流速は,0.15 m/s以上(平均0.28 m/s),全体での流速は0.15~0.58 m/s(平均0.36 m/s)であった。日本のオキシデーションディッチにおいて汚泥の堆積を防止するための底部流速は0.1 m/s以上,平均流速0.25 m/s程度とされている10)。今回の調査により,汚泥堆積の恐れは少ないと判断された。
図9 反応槽内の流速分布
図10 反応槽内の流速分布(代表)
撹拌機運転開始後のTSの変化を図11に示す。運転開始2時間でTSは2 %と一定になることが確認でき,撹拌能力が十分であることが確認できた。
図11 撹拌機運転開始後の汚泥濃度変化
1槽目のスタートアップ時におけるPOME性状を表3に,処理結果を図12に示す。
スタートアップ期間におけるPOME性状(平均)はpHは4.4,CODCrは94700 mg/L,TSは60000 mg/Lであった。
スタートアップから28日目にはCODCr容積負荷3.9 kg/(m3・d),28から39日目までの平均3.4 kg/(m3・d)を達成した。反応槽出口までのCODCr除去率は平均71.6 %,沈澱池越流水では平均81.1 %となり,沈澱池によりCODCr除去率は約10ポイント改善することが確認できた。
項目 | 範囲 | 平均値 | 設計値 | |
pH | (-) | 4.2–4.6 | 4.4 | 4.0-4.5 |
TS | (%) | 52000–68000 | 60000 | 40000 |
CODCr | (mg/L) | 82500–112000 | 94700 | 75000 |
図12 運転結果(スタートアップ時)
2槽目のスタートアップが完了し,POME全量受入時の処理性能を表4に示す。CODCr容積負荷は2.9 kg/(m3・d),CODCr除去率は89.2 %,バイオガス発生量は37200 m3/d,バイオガス中のメタン濃度は60.3 %であった。メタンガス発生量は22500 m3/dとなり,除去CODCr当たりのメタン転換率に換算すると0.357 m3/kg-CODCr, NTPとなる。メタンのCODCr換算の理論値(0.350 m3/kg-CODCr, NTP)とほぼ同じであり,除去CODCrに相当するメタンを回収することができた。
嫌気性消化槽を適用した実設備の例では,反応槽容積 2500 m3×3槽,原水CODCr 45000~70000 mg/L,HRT 18日,CODCr容積負荷2.6~3.5 kg/(m3・d),CODCr除去率80~85 %と報告されている8)。本提案プロセスでは,嫌気性消化槽と同等以上の処理性能を達成した。
項目 | 範囲 | 平均値 | |
処理量 | (m3/d) | 868-997 | 963 |
CODCr容積負荷 | [kg/(m3・d)] | 2.2-3.2 | 2.9 |
CODCr除去率 | (%) | 87.9–91.5 | 89.2 |
メタン濃度 | (%) | 60.1–60.3 | 60.3 |
バイオガス発生量 | (m3/d,NTP) | 33000–39400 | 37200 |
メタンガス発生量 | (m3/d,NTP) | 20200–23700 | 22500 |
メタン転換率 | (m3/kg-CODCr) | 0.306–0.453 | 0.357 |
密閉式無終端型嫌気性消化槽を開発し,POMEを対象とした実設備を納入した。結果を以下にまとめる。
開発した密閉式無終端型嫌気性消化槽は,良好な流動状態であることを確認した。
POMEを対象としたスタートアップでは,28日間でCODCr容積負荷3.9 kg/(m3・d),沈澱池越流水までのCODCr除去率81.1 %の短期間スタートアップを達成した。
POME全量受入時,CODCr容積負荷は2.9 kg/(m3・d),CODCr除去率は89.2 %,バイオガス中のメタン濃度60.3 %,除去CODCr当たりのメタンガス回収量は0.357 m3/kg-CODCr,NTPの良好な処理性能を達成することができた。
1)Foreign Agricultural Service/ United States Department of Agriculture, Oilseeds: World Markets and Trade, p.19,(accessed 18 September 2018)
2) Abdul-Raof, A. Ohashi, A. Harada, H.: High rate anaerobic treatment of palm oil mill effluent (POME) by reversible flow anaerobic baffled reactor (RABR), Journal of Environmental System and Engineering, JSCE, Vol.776 (VII-33), pp.115-123, 2004.
3) Igwe, J. C. Onyegbado, C. C.: A review of palm oil mill effluent (POME) water treatment. Global Journal of Environmental Research, Vol.1, No.2, pp.54-62, 2007.
4) Poh, P. E. Chong, M. F.: Development of anaerobic digestion methods for palm oil mill effluent (POME) treatment. Bioresource Technology, Vol.100, No.1, pp.1-9 2009.
5) Lam, M. K. Lee, K. T.: Renewable and sustainable bioenergies production from palm oil mill effluent (POME): Win-win strategies toward better environmental protection, Biotechnology Advances, Vol.29, No.1, pp.124-141, 2011.
6) Kumaran, P. Hephzibah, D. Sivasankari, R. Saifuddin, N. Shamsuddin, A.: A review on industrial scale anaerobic digestion systems deployment in Malaysia: Opportunities and challenges. Renewable and Sustainable Energy Reviews, Vol.56, pp.929-940, 2016.
7) Yacob, S. Hassan, M. A. Shirai, Y. Wakisaka, M. Subash, S.: Baseline study of methane emission from anaerobic ponds of palm oil mill effluent. Science of The Total Environment, Vol.366, No.1, pp.187-196, 2006.
8) Tong, S. L. Jaafar, A. B.: POME biogas capture, upgrading and utilization. Palm Oil Engineering Bulletin, Vol.78, No.7, pp.11-17, 2006.
9) Standard Methods for the Examination of Water and Wastewater. 21th edn, American Public Health Association/American Water Works Association/Water Environment Federation, Washington DC, USA, 2005.
10) 下水道施設計画・設計指針と解説(日本下水道協会)2008年版,第2部,pp.119.
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