佐々木 稔* Minoru SASAKI
岡本 晃靖* Teruyasu OKAMOTO
*
荏原環境プラント㈱
日本において廃棄物処理施設は,その時々の生活環境や社会的要求により変遷してきており,現在では本来の目的であるごみの衛生処理に加え,高効率エネルギー回収や防災拠点としての活用など,より多面的な役割が求められている。その多面的な役割の中でも再生可能エネルギーとして安定した電力供給の要求が高まっている廃棄物発電技術に着目し,本報では日本国内における高効率発電技術の変遷や当社の取組み内容,最近の調査結果や課題の解決方法,最新の採用事例と今後の方向性について紹介する。
In Japan, waste treatment facilities have been changing along with the living environment and social needs of the times. In addition to their intended purpose of sanitation treatment of refuse, they are now required to play more multifaceted roles, including high-efficiency energy recovery and utilization as disaster prevention bases. Of such roles, here we will focus on waste power generation technology, which is expected to respond to the growing demand for a stable electric power supply as renewable energy. In this report, we will also introduce the history of high-efficiency power generation technology in Japan, Ebara’s efforts toward such technology, recent survey results and solutions to issues, some recent cases of adopting the technology, and its future direction.
Keywords: High efficiency, Waste power generation, Stoker furnace, High temperature high pressure boiler
日本の廃棄物処理の歴史において,廃棄物処理施設の役割は,公衆衛生を確保するためごみを適正に衛生処理することから,生活環境保全へ,さらには地球環境保全へと変化し,廃棄物処理技術のあり方も変貌を遂げてきた。そして,東日本大震災をはじめとする未曾有の大災害は,日本の廃棄物処理のあり方,公共施設としての地域貢献のあり方,エネルギー利活用のあり方を改めて考え直させる契機となり,現在の廃棄物処理施設は,防災拠点としての強靭化や地域のエネルギーセンターとしてさらなる有効利用が求められてきている。
このような背景から,昨今求められる廃棄物処理施設が備えるべき性能は,以下のように多岐にわたると考えられている1)。
・安全・安定にごみを衛生処理すること
・ダイオキシン類等の有害物質排出による環境汚染がないこと
・焼却廃熱からのエネルギー回収効率が高いこと
・動力及び燃料消費が少ないこと
・残渣の発生が少ないこと
・運転管理が容易なこと
その中でも,焼却廃熱のエネルギー回収率向上への取組みは,2020年以降の地球温暖化対策の枠組と数値目標を定めた「パリ協定(2016年11月締結)」,「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(2012年施行)」,「改正電気事業法による電力小売事業の全面自由化(2016年施行)」などを背景に,発電量,送電量を最大化するための施設づくりや効率的な運用改善がさらに求められている。
本稿では,これまでの高効率発電技術の変遷や当社の取組み,最近の調査結果や課題の解決方法,最新の採用事例と今後の方向性について紹介する。
当社の廃棄物処理への取組みは,1961年に37 t/dのストーカ炉を青森市に納入したところから始まる。1980年代には,HPCC®ストーカ式焼却炉を開発し,1984年に武蔵野三鷹地区保健組合殿向けに初のボイラ付焼却プラントを納入した。1996年には高温高圧型ボイラの実機導入にいち早く取組み,蒸気条件3.82 MPaG×400 ℃,発電能力7000 kWという,当時国内屈指の発電施設を北海道帯広市の十勝環境複合事務組合殿(くりりんセンター)向けに納入し,その後約23年間にわたり,余剰電力の売却により運用コストを大幅に低減しながら安定稼動している。2004年には東京都足立清掃工場向けにストーカ炉350 t/d×2基,灰溶融炉65 t/d×2基の大型炉のボイラ付き発電施設を納入した。
現在では,廃棄物処理施設が備えるべき性能をより確かなものにするため,低空気比・高温燃焼に対応したHPCC®21ストーカ式焼却炉(図1)へと改良し,2008年8月竣工の福島市あらかわクリーンセンター以降,多くの施設を納入し,安定に稼動している。
*HPCCは,荏原環境プラント㈱の日本における登録商標です。
図1 HPCC21<sup>®</sup>ストーカ式焼却炉模式図
ごみ発電への取組みは,欧州が長い歴史を有しており,特に高温高圧ボイラへの取組みでは,我が国は欧州に約20年の遅れがあった1)。日本では,国内最初のごみ発電所として大阪市西淀工場が1965年に稼動した。日本の自治体及び各プラントメーカ,大学などの研究機関は高効率発電に向け,NEDOの「高効率廃棄物発電技術開発」プロジェクトなどを活用し,高温腐食に耐えうる材料調査や開発を進め2),ボイラの高温高圧化技術の向上を目指していった。その後,1995年には埼玉県で蒸気温度380 ℃のボイラが稼動し,1996年には現在の高温高圧ボイラのベースとなる,蒸気条件3.82 MPaG×400 ℃の発電施設(くりりんセンター)が稼動した。
当社は本施設の設計建設を手がけ,現在まで23年以上にわたりその運転及び維持管理を行っている。
表1にくりりんセンターの施設概要を示す。
過熱器(SH)は,1次,2次,3次の三段で構成し,その材質は1次からSTB410,SUS309系,SUS310系を使用した。図2にその構成を示す。付着したダストを払い落とすスートブロワ付近には,プロテクタを設置し,損耗による減肉を軽減した。当時の使用状況として,塩化水素濃度のピークが1000 ppm(12 %O2換算値)を超えるような厳しい腐食環境にもかかわらず,減肉量は2年間で約0.43 mmと軽微であった3)。その後,3次過熱器は1回目の更新を2005~2007年に,2回目の更新を2015~2017年に行い,当初の交換予定期間よりも長い約10年間の使用を達成した。
また同時に,ライフサイクルコストの低減やより安心・安全な施設運営,さらなる高温高圧化のために必要な改善すべき点も改めて確認された。
項目 | 概要 |
焼却量 | 110 t/d×3炉 |
形式 | ストーカ式焼却炉 |
設計ごみ質 | 約5000~12600 kJ/kg |
ボイラ条件 | 3.82 MPaG×400 ℃ |
排ガス処理 | 乾式消石灰+バグフィルタ |
タービン | 7000 kW |
図2 過熱器模式図
ごみ焼却プラントの高温高圧ボイラの主な技術的課題は,高温腐食対策である。特に,過熱器管の腐食挙動の把握が重要であり,その課題解決には,長期にわたる調査とそれに基づく適切な設計と運用が必須である。次にその取組みをいくつか紹介する。
一般的な廃棄物処理プラントフロー図を図3に,ボイラ内部での灰付着例を図4に示す。ごみ中には多量の灰分と塩素が含まれ,その塩素がアルカリ金属や重金属などと塩化物を形成する。その塩化物は,種類によって濃縮する温度域が異なるが,排ガス温度が高く,管壁温度が低い部分に濃縮する傾向が見られ,主にCl2ガスによる塩化反応を引き起こし,腐食を促進させていると考えられている。また,灰の融点も腐食の要因とされている。表2に腐食部と健全部に付着している灰の性状の一例を,図5に付着灰中重金属含有量と融点の関係を示す。これらから分かるとおり,ボイラや過熱器に付着する灰に重金属が多く含まれるほど,その融点が下がり,腐食に対して悪影響を及ぼしていると考えられる。また,排ガス温度が高いほうが塩化物の濃縮を促進させていることも,指摘されている4)。
図3 廃棄物処理プラントフロー図
図4 ボイラ内部の灰付着状況
Na | S | Cl | K | Ca | Cu | Zn | Pb | 融点(℃) | pH | |
腐食部 | 4.31 | 3.52 | 15.32 | 4.58 | 4.89 | 0.96 | 1.99 | 13.83 | 328 | 5.79 |
健全部 | 7.97 | 11.83 | 5.25 | 6.95 | 10.81 | 0.98 | 0.78 | 2.66 | 426 | 7.06 |
図5 付着灰中の重金属含有量と融点の関係
付着灰への重金属濃縮が腐食性に影響を与えていることは広く知られているが,ボイラや過熱器などの付着灰の性状は,ごみの性状のみならず,焼却炉の燃焼方式や部位,各種の条件によって大きな違いが生じていることが昨今の調査で分かってきた。特に,炉内やボイラ内での脱塩プロセスが燃焼方式によって異なり,排ガスや付着灰への塩素の移行率が違うことも一つの理由として挙げられる。図6に,炉機種毎の塩素及び重金属の移行特性を示す。
図7~図9に,特に腐食因子として知られる塩素,重金属(Cu,Zn,Pb)に関する炉機種毎のボイラ付着灰の性状を示す。
調査結果からは,ストーカ炉と流動床炉では排ガス温度の高い1パスにおいて,塩素,重金属が灰中に比較的多く濃縮している結果となった。塩素の排ガス移行率が最も低い流動床炉は,3次過熱器,2次過熱器で付着灰中に塩素が高濃度で存在している。その反面,最も排ガス移行率が高いストーカ炉では,他形式に比べて2パス以降の付着灰中の塩素濃度が低くなる傾向を示した。流動床ガス化溶融炉では,3次過熱器において塩素濃度が高いなどの特徴も確認された5)。
これらの結果は,炉機種によりボイラの腐食挙動が変化する可能性があることを示唆している。排ガスの観点からは,流動床炉の方が塩素濃度は低くなる。一方,より腐食に強い影響を及ぼすと推測される付着灰の観点からは,ストーカ炉の方が,腐食が抑制される可能性が推察される。しかしながら,設計条件やごみ質,運転状況等を同条件下で比較することは難しく,炉機種による腐食の違いを明らかにするためには,さらに定量的な比較検討が必要と考える。
排ガス温度及び管壁温度における影響度合いについては,都市ごみ焼却施設において,腐食試験プローブを活用し排ガス温度やメタル温度を変化させ,その影響について調査した6)。図10に腐食試験プローブ模式図を,図11に排ガス温度とCl/S割合の相関図を示す。
主要な調査結果は以下のとおりである。
・700 ℃の排ガス温度雰囲気に設置したプローブは,半年程度の潜伏期間を経て1 mm/年以上の激しい腐食が観測された
・排ガス温度が高いほど,付着灰中のCl/Sの比率が高く,腐食へ大きく影響を与えている
・Cl/Sの比率は,メタル温度によっても排ガス温度と同様の影響を受けている
これまでの調査結果から,塩素化合物に代表する腐食成分の挙動,排ガスやメタルの温度条件が最も腐食状況に影響を与える要素であることが,改めて示唆された。
今後のさらなる高温高圧化に向けては,それらの実績データを踏まえ,より正確な寿命予測と,目指すべき寿命に応じた最適設計を行うことが最も重要であることは言うまでもない。
図6 炉機種毎の塩素及び重金属の移行特性
図7 ボイラ付着灰サンプリング箇所
図8 炉機種毎のボイラ付着灰中の塩素濃度傾向
図9 炉機種毎のボイラ付着灰中の重金属濃度傾向
図10 腐食試験プローブ模式図
図11 プローブ付着灰中元素の排ガス温度毎の濃度比較
当社は,これらの20年以上にわたる高温高圧ボイラの実績を踏まえ,腐食予測精度を向上させてきた。現在では,新たな取組みとして,さらに高い蒸気条件を用いた高温高圧化を推進している。
そして,これまでの国内の都市ごみ焼却施設向け高温高圧ボイラの実績や海外・国内民間向けの6 MPa×450 ℃クラスのボイラ実績を活用し,新たな都市ごみ向け高効率発電施設として,桑名広域清掃事業組合殿(可燃ごみ焼却施設)向けに6 MPa×450 ℃クラスの超高温高圧型ボイラを備えたストーカ式焼却炉を現在建設中である(竣工予定2019年12月)。この施設の事業形態は公設民営方式(DBO)であり,当社で施設の設計建設に加え,あらかじめ20年間の運営事業を含めた事業を請け負っている。したがい,当初20年間の運営期間はもとより,さらに先の延命化を見据えた施設の稼動目標である35年間以上の施設運営を考慮し,イニシャルコストとランニングコストをあわせたLCCに優れた施設として配慮した設計としている。
表3に当該施設の施設概要を示す。
蒸気温度を450 ℃へ安定的に上げるための方策としては,従前の過熱器3段構成にもう一段加えた過熱器4段構成を採用し,これまで論じてきた腐食性成分の挙動や長期データに基づく寿命予測結果を活用し,長期安定稼動可能なボイラ設計を行った。
また,ボイラ付着灰の除去手段として,圧力波で除去するショックパルス方式を採用している。図12に圧力波式ボイラクリーニング装置の模式図を示す。この技術は,メタンガスと酸素を混合したガスに着火し,発生する圧力波による衝撃で管群に付着した灰を落とす仕組みである。ヨーロッパでは実績が多く,蒸気式スートブロワで見られるドレンアタックによる管群の減肉を抑制できるだけでなく,広い範囲で均質な灰落としが可能となるため,新たなボイラクリーニング方式として,国内においても採用が広がってきている。さらに,このシステムの特徴として,従来ではダスト除去に使用していた蒸気を発電に利用することができるため,発電電力が向上することに加え,動作時にタービンへの蒸気量が変動せず,発電及び送電の安定性が大きく向上することが挙げられる。
これら高温高圧ボイラ技術に加え,低温エコノマイザの採用(排ガス温度170 ℃),タービン排気の高真空化(8 kPa)など,発電量向上のための施策を積極的に採用することにより,国内トップクラスの高い発電効率(22.9 %)を達成する設計とした。この施設が稼動すれば,全国初の6 MPa×450 ℃クラスの都市ごみ向けストーカ式焼却炉の実績となる。
項目 | 概要 |
焼却量 | 87 t/d×2炉 |
形式 | ストーカ式焼却炉 |
設計ごみ質 | 4160~10370 kJ/kg |
ボイラ条件 | 6.0 MPaG×450 ℃ |
排ガス処理 | 乾式消石灰+バグフィルタ |
タービン | 3080 kW |
発電効率 | 22.9 % |
図12 圧力波式ボイラクリーニング装置模式図
当社は,全国初の4 MPa×400 ℃クラスのストーカ式焼却炉を稼動させて以来,長期にわたり腐食メカニズムや挙動調査を行ってきた。また,ストーカ炉,流動床炉,流動床ガス化溶融炉と様々な炉機種を有していることから,その挙動についても,広く様々な視点から把握することができ,腐食メカニズムの解明や予測精度の向上に資する,より多くの知見を蓄積している。
当社は,それら知見を活かし6 MPa×450 ℃クラスの次世代型高効率発電施設を安定に稼動させることで,エネルギー利活用技術の向上に努めるとともに,その結果を広く廃棄物処理発電分野に活かすことで,これからも廃棄物処理行政の課題を解決するリーディングカンパニーとして貢献していく所存である。
1) 石川龍一,エバラ時報,No.237,2012,固形廃棄物処理市場の今後の技術動向.
2) 吉葉正行他,第23回廃棄物資源循環学会,2012,高効率廃棄物発電プラントボイラの環境解析と過熱器管の高温腐食損傷解析.
3) 野口 学 他,第10回廃棄物学会,1999,高効率ごみ発電用ボイラ過熱器腐食調査.
4) 野口 学 他,エバラ時報,No.253,2017,腐食防食講座-高温腐食の基礎と対策技術-第3報.
5) 神山直樹ら,第28回廃棄物資源循環学会,2017,廃棄物発電ボイラにおける腐食性成分の挙動調査.
6) 神山直樹ら,第29回廃棄物資源循環学会,2018,過熱器管材料の腐食速度調査と影響因子の挙動.
本稿は,環境施設No.154(2018.12)に掲載した内容を一部加筆・修正して転載した。
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