汪 哲* Zhe WANG
福与 泰隆* Yasutaka FUKUYO
林 福財* Fucai LIN
盛田 明男* Akio MORITA
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㈱荏原エリオット
近年,中国市場を中心にした天然ガス化学が活発している。その代表としてPDHプラントの建設計画が多々あり,エリオットグループは,そのプラントの心臓にあたる遠心式圧縮機を数多く提供しており,トップシェアを誇っている。本稿は,PDHプロセスの種類,特徴,PDH用遠心圧縮機の代表構成例,その特徴や需要に応え,当社技術的なアプローチ等を紹介する。
In recent years, natural gas chemistry, especially in the Chinese market, has been booming. As a result, many plans are being made to construct PDH plants. Elliott Group offered many centrifugal compressors, which were the core equipment of PDH plants, and holds the top market share. This paper introduces the types and characteristics of the PDH process, typical configuration examples and characteristics of centrifugal compressors for PDH plant, and our technical approach to meet demands.
Keywords: PDH, Propane dehydrogenation process, Centrifugal compressor, Product gas, Reactor effluent, Lummus, UOP, Large scale motor, Ethylene plant, Ethane cracking
プロピレンは,ポリプロピレン(PP)のほか,フェノール,アセトン,アクリル酸/アクリル酸エステル,アクリルニトリル,オクタノール,プロピレンオキサイド,プロピレングリコール,イソプロピルアルコール等多くの化学製品の基本原料であり,それらは,ペットボトルのキャップや容器,自動車部品等の製品となり,人類の持続的発展に必要不可欠な基礎化学品である。
日本の石油化学では,石油を原料とするナフサクラッキングでエチレンやプロピレンが生産されているが,世界では米国のシェール革命による天然ガス化学の復興で,安価なシェールガスを原料とするエタンクラッキングにシフトし,高い競争力を持つようになった1)。
さらに,石油と比較し,環境負荷が少ないことから世界のエチレンプラントの多くは大型エタンクラッキングが主流となっている。しかしエタンからの精製では,副生品のプロピレンの収率が少ないので,これを補うために天然ガスの成分であるプロパンから,脱水素法(PDH:Propane Dehydrogenation Process)によりプロピレンを製造するプラントが大規模に建設されている2)。
PDHのプロピレン回収率は74-82 %,運転状況や触媒によっては80-90 %もあり,世界的にその経済性が注目されている3)。
特に中国では,PDH,CTP(Coal to Propylene),MTP(Methanol to Propylene),等プロピレンを目的に製造する新設備が急増しているが,その中でもPDHの増加が著しく,中国の圧倒的な建設コストの安さを武器にプロピレン世界シェアを伸ばしている。さらに原油価格の値下がりとシェールガスを含む天然ガスの開発が進む中,中国国内の製品市況は原料の値下がりに比べ小幅に留まっていることから,PDHの採算性に問題がないという判断で,急速にプロジェクトが進行している4)。
PDHプラントのプロセスとしては,Honeywell UOP社のOleflexプロセス,McDermott Lummus社のCatofin プロセス,Uhde社(現在ThyssenKrupp Group傘下)のStarプロセス,およびLinde / BASF / Snamprogetti / Statoil共同開発プロセスがある。また,アメリカのDow Chemical社のFCDhプロセス,KBR社のK-PROプロセスは,それぞれ自社既存のFCC(Fluid Catalytic Cracking)プロセス技術に基づき,新たにPDHプロセスが開発され,商用化されてきている。
現在世界で操業あるいは建設・計画中のプラントは,タイ,マレーシア,韓国,スペイン,エジプト,サウジアラビア,UAE,米国等でUOPプロセスがリードしており,ベルギー,メキシコ,サウジアラビア,カザフスタン等で実績を上げたLummusプロセスが続いている。UhdeプロセスはエジプトEPPCのPortSaid向けがある。
中国では10件以上のライセンス契約でUOPプロセスがリードしているが,商業プラント稼働の第1号はLummusプロセスとなった2)。
エリオット製PDH用圧縮機は,近年の市場の活況を反映し,中国だけでなく米国や欧州等全世界に多くの納入実績を有し,特にプロセスガス用遠心圧縮機でUOPプロセスのReactor Effluent Compressor(REC),LummusプロセスのProduct Gas Compressor(PGC)においては60 %近い納入シェアを持つ。
PDHプラントに使われる代表的な圧縮機で最も大容量のREC for UOPとPGC for Lummusの納入実績を(図1)に示す。当社の納入実績では中国の顧客が2014年以降急激に多くなっており,世界のPDH市場の動向と一致している。
図1 PDHプラントに使われる代表的な圧縮機の納入実績
PDHプラントに採用される原料としては,主にプロパン等の天然ガスであり,エチレンプラントに比べ,より軽質な原料である。
PDHプラントの主なプロセスガス用圧縮機である,UOPプロセスのREC,LummusプロセスのPGCの特徴は,大流量であり,その圧縮機の大きさは,構成が類似しているエチレンプラント用のCracked Gas Compressorと比較すると,プロピレン生産量600 KTAクラスのプラントで1.5 MTAクラスのメガエチレンプラントの圧縮機と同等である。大流量に対応するため,低圧ケーシングに軸流圧縮機,高圧ケーシングに遠心圧縮機が採用されることもあるが,羽根設計のロバスト性と性能特性の違いの観点から,すべての要求に対応できる遠心圧縮機が主流となっている。近年では,生産効率を向上させる為,入口圧力は大気圧より下回ることが多く,体積流量,ヘッドの増加による大型化・羽根車段数増加の傾向にある。
また,エチレンプラントと比較して,PDHプラントではエチレンプラントのような分解炉がなく,蒸気の発生が少ないため,圧縮機の駆動機として電動機が用いられることが多いこともPDH プラントの特徴である。
(1)代表的な圧縮機トレーン構成
当社において多くの実績のあるUOPプロセスとLummusプロセスの代表的な圧縮機トレーン構成※を以下(図2)に示す。
図2 代表的な圧縮機トレーン構成
この図は600 KTA規模のプラント能力の両プロセスの圧縮機構成を示す。Lummusプロセスがエチレンプラントの構成と類似,それに対し,UOPプロセスには冷凍機がないのが特徴である。
UOPプロセスの圧縮機とLummusプロセスのHeat Pumpを除きすべて多段遠心圧縮機が選定され,LummusプロセスのHeat Pumpだけは単段オーバーハング式遠心圧縮機が選定される。
(2)大容量電動機駆動
当社の実績では,当初は蒸気タービン駆動だけであったが,2014年以降モータ駆動が多くなっている。時代のニーズとして可変速モータの導入はプラント全体の総合効率向上の観点から他のオイルガス&ガスプロセス(石油精製プラント・LNGプラント・LNGパイプライン)にも適用されてきている5)。
モータ駆動の場合は,起動電流軽減のため,VSDモータかソフトスタート起動が採用されている。例として,UOP社プロセス及びLummusプロセスにおいて当社の実績の5パターンを(図3)に示す。
図3 モータ駆動方式のパターン
M-1
蒸気タービン駆動と同様低圧ケーシングと高圧ケーシングはタンデム配置。当社実績的には最大40 MW程度。
M-2
モータ定格出力は約40 MWを超える場合に,1/2プラント能力×2系統に分ける。
M-3
VSDモータに代わり一定速モータにソフトスタータを採用。ソフトスタータ盤はヒートポンプ圧縮機用と共用。
M-4
低圧ケーシングと高圧ケーシングはタンデム配置ではなく単独に駆動。インバータ容量はRECの低圧用・高圧ケーシング用・ヒートポンプ用と同一とし,インバータ設計を同じにする。
M-5
低圧ケーシングはVSD可変速制御,高圧ケーシングは一定速モータ。ソフトスタータ盤はヒートポンプと供用。
顧客のプラントユーティリティ状況及び希望に合わせ,主に上記パターンの中から採用されている。
圧縮機の実際の運転では定格条件とは異なる大気空気や窒素ガスでの運転があること,システム抵抗によってはモータ定格出力を越える恐れがあること。
VSDモータやソフトスタートの場合には顧客・回転機メーカー・電気メーカー間の情報不足による基本計画の食い違いがないようにする必要がある。
当社ではプロセスを含めたダイナミックシミュレーション解析を行うようにしている。
モータ・VSD等電気設備の定格点が設計の上限であることを認識する必要がある。またVSDモータやソフトスタータの場合には,リスク回避により二重化方式,もしくは三重化方式を要求される場合がある。
被駆動機(圧縮機)と駆動機(蒸気タービンやモータなど)を連結した状態を圧縮機トレーンと称する。
当社は,メガエチレンやエチレンオキサイド・エチレングリコール(EOEG)・LNGプラントに向け構築していたノウハウ・実績を用い,PDHプラント用遠心圧縮機に以下3つのアプローチを掲げ,実施している。
(1)超大流量係数・高効率の羽根車
遠心圧縮機が大型化すればするほど圧縮機をできるだけ小型軽量化・高速化しプラントの初期投資額を抑えることが要求される。大流量を比較的小径で対応可能な大流量係数羽根車を採用することが有効であり,メガエチレンプラントでも多く採用されている。
本来,メガエチレンプラントの大型化に対し,開発されたものである。これまでの最大流量係数を大きく超える斜流タイプの羽根車の採用に加え,当社は3次元自由曲面羽根板を中間羽根と組み合わせる構造及び静止流路であるリターン・チャンネルの流路最適化で,大流量時の諸々損失を最小限に抑えられ,超大流量と高効率の両立を実現できた。その羽根車を採用し,高速化することによって,現状と同等の効率を維持しながら,圧縮機のケーシングサイズをこれまでより1~2ランクケーシング型番を下げることが可能となる6)。図4に,超大流量・高効率羽根車を示す。
図4 超大容量・高効率羽根車
(2)ロータ安定性の向上
PDHプロセスに要求される大流量・高ヘッドに対応するため,大きなノズル,羽根車段数増加により,ロータの軸受スパンが長くなる傾向がある。PDHプラントに提供した遠心圧縮機トレーンが,ロータ安定性の理由で,低圧ケーシングを2つの並列配置構成としたことがあったが,現在は,低圧ケーシングが両吸込み構造の1ケーシングを実現でき,ケーシング数を減らせるので,顧客の初期投資を抑えられることができる。
図5に,600 KTA PDHプラントに向け,当社のトレーン構成の比較を示す。
図5 2ケーシング・3ケーシングトレーン構成比較
ロータ安定性の向上のため,ノズル流路の最適化を実施した。メガエチレンプラントにも適用しているが,CFD解析技術を用い,流路面積を確保しながら,両吸込み圧縮機のノズル部分の軸方向を大幅に短縮し,長大化したロータの安定性を図り,低圧圧縮機を一つにまとめることを可能とした。ケーシング連結台数の減少による,機械設置面積の省スペース化も実現している。
図6に,メガエチレンプラントで使用される圧縮機吸込みノズルを示す。
図6 圧縮機吸込みノズル
(3)高速バランスの実施
回転体全体での動的バランスを含めたロータ品質を堅実強固なものとするため,1次危険速度が運転速度以下の機械については,全てのロータに対し高速バランスを実施している。ロータ組立完了後,高速バランスを行い,危険速度を超えた運転域での振動モード下でバランス修正を行うことで,実際のプラント運転環境下での機械振動リスクを最大限低減すると共に,出荷前工場内運転試験での振動リスクをなくすことで客先要求納期を厳守し,プラント建設スケジュールが遅延することを回避している。
現在石油化学業界もSDGsの理念が広がり,環境負荷の低減が今まで以上に要求され,PDHプラントでも大量集中生産による大型化,高効率化が更に要求されると予想する。当社ではメガエチレンプラントのノウハウを応用してその市場要求に応えるべく,開発を続けていく所存である。
また,圧縮機本体だけでなく補機である駆動機の大型化にも注力していく必要がある。駆動機容量は現在既に60 MWクラスを越えようとしている。エチレンプラントに比べPDHプラントは電動機駆動の比率が高いので,今後大容量のモータ特にインバータの大容量化や冗長化による信頼性の向上等がますます要求されるだろう。そのため,エンジニアは電気機器の最新技術動向や電気工学・機械工学の両方を理解するように心がける必要がある7)。
近年,天然ガス化学へのシフトにより中国を中心に急増しているPDH設備で活躍する圧縮機を紹介した。
現在,新型コロナの世界的な感染拡大やそれに伴う原油安の影響,更に米中貿易戦争等,経済,政治の情勢が不安定で先行きが見通せない。しかし,人類の持続的発展を考えると今後も世界的にPDHプラントの建設は続いていくと予想される。
本稿が若手設計エンジニアおよびユーザーの参考になれば幸甚である。
1) 旭リサーチセンター2014年4月 「石油化学」から「天然資源化学」へ.
2) 旭リサーチセンター2017年3月 天然ガス化学・石油化学・石炭化学.
3) JPECレポート 平成26年2月25日プロピレン増産に向け中国で相次ぐプロパン脱水素計画.
4) 経済産業省 平成30年3月発行 世界の石油化学製品の今後の需要動向.
5) 第149回ターボ機械セミナー 平成30年7月3日 可変速を含むモータ駆動ターボ機械における諸問題.
6) 大型・高速化・特殊仕様等のカスタマイズ対応への設計的アプローチの紹介 ターボ機械 2019年7月.
7) 大型回転機機械駆動用VSD(可変速)モータの動向と電気・機械連成トルク変動問題について ターボ機械 2009年3月.
本原稿は「産業機械2020.7・8合併号」に掲載した内容を転載した。
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