三輪 佳祐* Keisuke MIWA
村末 創* So MURASUE
長 洋光* Hiromitsu CHO
野口 学** Manabu NOGUCHI
*
荏原環境プラント㈱
**
技術・研究開発・知的財産統括部
廃棄物処理施設における発電の高効率化に向けた1つの施策として,エコノマイザ給水温度の低減による低温熱回収を目指した。そこで,低温熱回収の課題である低温腐食(酸露点腐食や潮解による腐食)が顕在化する条件を調査するため,実機の煙道にて温度を制御した試験片を暴露し,温度と腐食速度の関係性を整理した。また,煙道の排ガス組成や伝熱管に堆積する灰の分析を実施し,酸露点腐食の要因について考察した結果,灰の潮解による腐食への影響は軽微であり,排ガスの組成から推定した酸露点よりも低温で腐食量が急増することが分かった。
As one measure to improve power generation efficiency in incineration plants, we aimed at low-temperature heat recovery by lowering the temperature of feed water to the economizer. Therefore, in order to investigate the conditions under which low-temperature corrosion (acid dewpoint corrosion and salt deliquescence), which is a problem of low-temperature heat recovery, becomes apparent, a temperature-controlled test piece was exposed to the flue of an actual plant, and the relationship between temperature and corrosion rate was arranged. In addition, as a result of analyzing the gas composition in the flue and the ash deposited on the test piece and considering the factors of acid dewpoint corrosion, it was found that the deliquescence of ash had almost no effect on corrosion, and the corrosion rate rapidly increased at a temperature lower than the acid dew point estimated from the gas composition in the flue.
Keywords: Low-temperature heat recovery, Dewpoint corrosion, Economizer
循環型社会への貢献を図る観点から3Rの取組を進め,なお残る廃棄物については廃棄物発電等の熱回収に代表される廃棄物エネルギーの効率的な回収が推進されている。さらに,廃棄物処理施設は長寿命化を見据えた安定稼働も求められているため,安全な施設運営を達成しつつ高効率の発電を行うことが望ましい。
当社においても廃棄物発電のさらなる高効率化に向けた技術開発の1つとして,低温エコノマイザによる熱回収能力の強化に取り組んでいる。廃棄物焼却発電施設の一般的なフローを図1に示す。エコノマイザはボイラの後段にあり,排ガスの熱でボイラへの給水を加熱する熱回収装置である。エコノマイザでの熱回収量を増やすためには給水温度を下げることが有効な方法である。
図1 廃棄物焼却発電施設のフロー
しかし,給水温度の低温化によって排ガスに含まれるHClやSOxが伝熱管に結露することで酸露点腐食が生じる可能性がある。一般的に燃焼ガス中の水分量もしくはSO3濃度の上昇と共に硫酸露点が上昇することは知られているが,廃棄物焼却発電施設では石炭火力発電の排ガスに比べSO3濃度が低いため硫酸露点も低いと予想される。ただし,実際には廃棄物に含まれる硫黄や塩素の量は一定でないことに加え,酸露点を常時計測することは困難であるため,現状では酸露点腐食が生じる恐れのない十分に高い温度域に給水温度が設定されている。さらに,焼却炉の停止時に腐食が進行する場合も考えられる。当社の事例として,抜管した伝熱管を室内で約2週間保管したところ,管は全体的に湿っており,潮解性の高い塩化物が吸湿し加水分解することによってpH2程度の強酸が形成されていることを確認している1)。
このように高効率の廃棄物発電を維持しつつ,安全な施設運営を長期間達成するうえで,酸露点腐食や潮解性の高い塩化物などの塩類が助長して発生する低温腐食のトラブルは障害になり,メンテナンスコストの増加要因にもなる。そこで,廃棄物焼却発電施設のエコノマイザ使用環境下における腐食挙動や影響因子の詳細を明らかにするため,実機の排ガス中にて,鋼材の暴露試験を行い,腐食挙動を調査した結果について報告する。
エコノマイザ後段の煙道ダクトに伝熱管と同様の形状であるパイプ状の試験片を設置し暴露試験を実施した。本暴露試験に用いた装置の模式図を図2に示す。試験片には外径38.1 mm,肉厚4.0 mm,長さ1 200 mmのSTB340を用いた。排ガスの温度を測定するための熱電対を排ガスの上流側に設置した。また,試験片の長さ方向に位置の異なる3箇所に熱電対を設置して試験片表面の温度を測定し,試験片に冷却空気を流すことで試験片外表面の温度を所定の温度に制御した。試験片を2式用意し,試験片先端の温度を低温試験片は120 ℃に,高温試験片は140 ℃に設定した。なお,暴露試験中は壁面に近いほど冷却空気温度が低くなるため,試験片の先端から根元にかけて試験片外表面の温度が低くなる。暴露試験は2か所の都市ごみ焼却発電施設(施設A及びB)に対して,休炉期間を含めてそれぞれ約2年間実施した。ただし,施設Bにおいては低温試験片のみ暴露した。焼却炉が停止するたびに煙道ダクトから試験片を引き抜き,腐食生成物を除去後,試験片の外径をノギスで測定し初期値との差を減肉量とすることで,暴露期間から腐食速度を算出した。
図2 暴露腐食試験片模式図
暴露試験の腐食環境を調査するため,エコノマイザと同環境であるバグフィルタ入口側の排ガス組成分析を行った。排ガスに含まれる酸性ガスについて,HClはJIS K 0301(2012 排ガス中の酸素分析方法),SOxはJIS K 0103(2011 排ガス中の硫黄酸化物分析方法)に準拠して濃度を測定した。また,実際の運転において伝熱管には灰が一定の厚みで堆積し,暴露試験でも試験片表面での腐食反応に灰が影響を与えると考えられる。そこで,試験片に堆積した灰のうち試験片表面近傍の灰を採取し,化学組成やpH等の特性を評価した。分析試料は粉砕機(Rigaku TI-100N)で5分程度粉砕することで均質化し,粉末化した。試料を真空乾燥後,蛍光X線分析装置(Rigaku ZSX Primus IV)で化学組成を分析した。また,質量比を灰:水=1:10及び灰:水=1:100に調整した水溶液に対し,pH測定装置(東亜ディーケーケー HM-25R)でpHを測定した。
暴露試験中のある一週間において,試験片の各部に設置した熱電対の温度測定例を図3に示す。実機排ガスの温度は170~190 ℃程度で変動しているが,低温試験片及び高温試験片の先端温度はいずれも設定通り120 ℃及び140 ℃に固定できており,温度制御性を実現できている。また,低温試験片の温度は根元から先端にかけて約110 ℃から約120 ℃であり,高温試験片の温度は根元から先端にかけて約130 ℃から約140 ℃であった。
図3 試験片各部の温度測定例
続いて,試験片を煙道ダクトから引き抜いた直後に撮影した外観写真を図4に示す。試験片表面には白い灰が均一に約1 cm程度の厚みで堆積しており,灰を除去すると図4(a)で示す通り,試験片表面を覆うように薄い赤色の錆層が生成していた。また,試験片の外表面温度が110 ℃以上の部分では同様の外観であり,自然剥離した灰の試験片側にも赤錆が付着していた。一方,図4(b)で示したように壁面に近く110 ℃を下回る低温域で暴露された極根元部やその周辺は赤茶色や黄色の硬い腐食生成物に覆われており,激しく腐食した様子であった。
図4 ダクトから引き抜いた直後の試験片外観([ ]内は運転中の該当部表面温度を表す)
試験片に堆積した灰と腐食生成物を除去した試験片の外観写真を図5に示す。試験片の表面温度を110 ℃以上に制御していた部分は薄い赤錆に覆われていたが,試験片表面の赤錆を除去すると図5(a)で示すように,微視的な孔などの腐食痕はほとんどなく滑らかであった。一方,図5(b)で示すように熱電対を設置しておらず暴露試験中には110 ℃以下を下回っていた部分には腐食痕が散見され,表面が荒れていた。
図5 腐食生成物除去後の試験片外観([ ]内は運転中の該当部表面温度を表す)
暴露期間のうち焼却炉が運転している期間に各熱電対で測定した温度の中央値と熱電対設置部の減肉量との関係を図6に示す。ここで,熱電対を設置していない110 ℃以下の領域については,近似計算により温度を求めた。試験片の表面温度が約110 ℃から140 ℃の部分において腐食速度は0.1 mm/yearを下回っており,ほとんど腐食は認められなかった。100 ℃を下回る低温域で暴露された部分は激しく腐食していることが観察されたが,温度が低くなるほど腐食速度が大きくなることが分かった。また,このような試験片の表面温度に対する腐食速度の傾向は施設Aと施設Bで同様であった。以上から,本暴露試験環境においては腐食が顕在化し腐食速度が大きくなる温度は100 ℃程度であることが分かった。さらに,試験片表面の温度と腐食速度との関係性は外観の観察結果に対応しており,試験片の根元部で腐食が激しい部分は腐食速度が大きくなっていることを確認した。
図6 試験片表面温度と腐食速度の関係
暴露試験期間中における排ガスの組成分析結果を表1に示す。水分量は約20 %程度で変動が小さいが,SO3濃度は0.1 ppm-dryから0.5 ppm-dryで変動が大きい。硫酸露点を推定するには様々な計算式や相関図が提案されており2),3),推定値に多少の変動が見られる。また,一般的に塩酸露点は水の露点とほとんど同じ値であり,塩酸露点は100 ℃を下回る。一方,硫酸露点はガス中のSO3濃度と水分量に依存し,SO3が0.1 ppm程度含まれると硫酸露点は100 ℃を上回る値になる。本暴露試験環境においても硫酸露点は塩酸露点よりも高く,硫酸露点腐食が生じやすい環境であることが分かった。本暴露試験環境の硫酸露点は施設Aで約107 ℃から約112 ℃,施設Bで約104 ℃から約118 ℃と推定された。すなわち,本暴露試験環境における排ガス組成の分析結果から季節や時間帯によってSO3濃度と水分量が変動することによる硫酸露点のばらつきを考慮しても硫酸露点が120 ℃を下回ることが推定された。
表1 暴露試験環境の排ガス分析結果
試験片に堆積していた灰の化学組成及びpH測定結果を表2に示す。灰はCa,Na,O,Clなどを多く含み,酸化物や塩化物で構成されていることが分かった。さらに,灰を分析する際,短時間で吸湿したため,高い潮解性を有していることが認められた。一方,灰を純水に溶かした溶液のpHが約10であったことから,潮解した灰の腐食性は低いことに加え,溶液濃度を変えてもpHが10前後で変化がなく,緩衝作用が確認された。
表2 試験片から採取した灰の化学組成とpH
本暴露試験から本環境では腐食が顕在化する温度が約100 ℃程度であることが分かったが,排ガス,試験片に堆積した灰や腐食生成物の組成分析結果から腐食因子について検討した。排ガスの組成分析結果から,硫酸露点が120 ℃を下回ることが推定されたが,暴露試験の結果では推定した硫酸露点を下回る温度であるはずの100 ℃近傍でも腐食は穏やかであった。つまり,暴露試験結果において腐食が顕在化する温度と排ガスの組成から推定した酸露点が一致せず,推定した硫酸露点から約30 ℃程度下回る温度にて腐食速度が急増することが分かった。先行研究4)によると硫酸露点近傍では硫酸の凝縮量は少なく,高濃度の硫酸が凝縮するため硫酸鉄が生成し,腐食量が小さくなるが,露点から温度が低下することで低濃度の硫酸の凝縮量が増加するとしている。したがって,露点腐食における腐食量と金属表面温度との関係から,腐食量は露点近傍であれば小さく,露点以下20 ℃から60 ℃の表面温度で最大になるという報告もあり,本暴露腐食試験で得られた傾向と一致している。
また,先述の通り灰は塩化物を含み,高い潮解性を有しているため,灰の潮解によって全体的に減肉し、腐食速度が大きくなることが懸念される。しかし,休炉期間を含む約2年間実施した暴露試験の結果から全体的に腐食速度が大きくなることはなく,0.1 mm/yearを下回っている部分もあったため,灰の潮解は赤錆などの腐食生成物の形成には寄与している可能性はあるが,減肉量や腐食速度への影響は確認されなかった。この原因として,灰の水溶液が弱塩基性であったことから,鋼材に対する潮解した灰の腐食性は低いと考えられる。一方,灰と水の質量比を変えた水溶液のpH測定結果から緩衝作用が確認されたことから硫酸の凝縮に対してpHを調整する働きがあり,硫酸露点腐食を低減する可能性が示唆された。さらに,試験片に灰が堆積する影響としては,雰囲気中の酸素が試験片表面まで拡散することの障害となり,腐食を抑制する方向に働いていることも考えられる。
以上から,腐食試験で得た温度と腐食速度の関係において,管表面温度が硫酸露点を上回る部分では硫酸が凝縮しなかったため,減肉に至らなかったと考えられ,硫酸露点を下回る100~約110 ℃の部分でも試験片の減肉量が軽微であったことから硫酸露点近傍では凝縮量が少なく,減肉に至らなかったことが示唆された。また,硫酸露点を大きく下回る部分では継続的に硫酸が凝縮する環境であったため激しく減肉したと考えられる。暴露試験を通して温度と腐食速度の関係が整理され,発電効率を向上させるためのエコノマイザの給水温度を設定するうえで,重要な指標を得ることができた。
高効率の廃棄物発電を維持しつつ,安全な施設運営を長期間達成するうえで,課題となる低温腐食に対して,エコノマイザ使用環境下における腐食挙動や影響因子の詳細を明らかにするため,実機にて鋼材の暴露試験を行った。
試験片の腐食状況,及び試験片の表面温度と腐食速度の関係を調査した結果,腐食が顕在化する温度と排ガスの組成から推定した酸露点が一致せず,推定した硫酸露点から約30 ℃程度下回る温度にて腐食速度が急増することが分かった。また,本暴露試験環境においては灰の潮解による減肉量への影響は認められなかった。
一方,施設の安定かつ長期的な施設運営を考えるうえで,排ガス温度が低くHClやSOxを含む腐食性ガス環境下で使用され,低温腐食が懸念される機器はエコノマイザ以外にも空気加熱器,バグフィルタなどがある。低温域で使用される機器にSUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレスを使用した場合,機器は常に灰や排ガスに含まれる塩化物イオンに曝されるため,濡れが生じた時点で応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)を引き起こすリスクが高い。したがって,低温腐食が懸念されるプロセス全体を考慮した設計やメンテナンスが必要となる。
現在,露点の推定や温度と腐食速度の関係を整理するといった間接的な腐食環境の調査にとどまらず,結露や濡れにより発生する腐食の度合いを直接モニタリングする手法の構築を目指し,センサを活用した低温腐食に対する防食技術の開発を進めている。本手法に関する詳細は第2報で紹介する予定である。
1) 野口学,八鍬浩:「腐食防食講座-高温腐食の基礎と対策技術-」第4報:(焼却プラントにおける高温腐食と対策),エバラ時報,No.254,P.29-40,(2017).
2) P. Mueller: Chemie-Ing-Techn., 31- 5, 345-350 (1959).
3) F. H. Verhoff and J. T. Banchero: Chem. Eng. Prog., 70 (8), 71-72 (1974).
4) 長野博夫:防食技術,26,731-740(1977).
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